【貿易風】テロの可能性と対策

 ヨーロッパ各地、トルコ、そしてタイでも凄惨(せいさん)なテロ事件が相次いでいる。インドネシアでもこの2カ月弱に、ソロの警察署での自爆テロに加え、シンガポールやバリ島での攻撃未遂が明らかになっている。他方、数年にわたって中部スラウェシ州ポソで拠点を築いていたお尋ね者のサントソが遂に射殺された。
 記憶に新しい1月のジャカルタ・タムリン通りでのテロに類する事件が起こる可能性はどれほどのものだろうか。あれから7カ月あまりの間に分かってきたことを踏まえて、検討してみよう。
 まず確認しておきたいのは、ごく一部のイスラム過激派がテロを起こす理由である。彼らはパレスチナやシリアなどで起きているイスラム教徒への抑圧を、アメリカ政府やそれに協力する各国政府、さらにはそうした政府を選んだ国民の責任だと考えている。そうした抑圧や国際政治の矛盾が深まれば、「報復」を実行に移そうとする人も増える。
 1月のタムリン事件は、シリアで過激派組織「イスラミック・ステート(IS)」に合流したインドネシア人アブ・ジャンダルの指示によって行われたとされている。他方、7月5日の中部ジャワ州ソロでの自爆テロやシンガポールの攻撃未遂は、同じくシリアにいるバフルン・ナイム一派の人脈である。両者はライバル関係にあり、功を競っている。
 IS登場後も、実行犯のほとんどは以前から明らかになっている組織の関係者である。アブ・ジャンダルは、ラモンガン(東ジャワ州)を拠点とする2002年のバリ島テロの実行犯兄弟の親戚やインドネシアにおけるISの代表者といわれるオマン・アブドゥルラフマン(服役中)の周辺の人物。バフルン・ナイムはソロを拠点としたヒスバという小組織の元メンバーを使っている。11年に起きたチルボンとソロでの自爆テロはヒスバ・メンバーの犯行である。
 ことしに入ってからの事件では、いずれも作戦が稚拙で武器も貧弱だった。これはインドネシアの武装闘争派の主流が、ISに協力していないことが一因だと思われる。他方、先月射殺されたサントソは国産の自動小銃を保持していた。サントソはISへの支持を表明していたが、その一派は単独で行動していた。もし、タムリン事件の実行犯が自動小銃を持っていたら、まったく違う展開になっただろう。
 ここから二つのことがいえる。まず、今後もより戦闘能力の高い主流派は関わらず、かつてのような大規模な爆弾テロは起きにくいことである。しかし、フランスのニースで起きたように、トラック1台でもテロは可能である。これまでの失敗を踏まえて、より効果的な作戦を考えるものが出てくる可能性は否定できない。
 テロの発生を予想するのは地震予知と同じで不可能である。あまり神経質になるのはかえって体に悪いが、リスクを減らすことはできる。タムリン事件で標的になったような大通り沿いにある、アイコンとなるような欧米系のファストフード店やカフェは避ける。空港やモール、政府機関などではセキュリティー・ゾーンに入っておく。特にラマダン(断食月)明けや独立記念日、クリスマス、大みそか、バレンタインデーのような祝日、米豪政府が危険情報を流したときなどは、普段より慎重に行動することを心掛けたい。(見市建=岩手県立大学総合政策学部准教授)

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