熱気、煙…甘い香り 大きな鍋に力込め 伝統菓子ドドル・ブタウィ
熱気のこもる薄暗い作業場で、たばこをくわえ、汗をぬぐいながら、男たちが直径1メートルほどの銅製の大鍋を黙々とかき混ぜる。のぞき込むと黒や茶色の液体がぽこぽこと泡をたて、湯気が立ち上る。南ジャカルタのパサールミング・東プジャテンの住宅地にある伝統菓子「ドドル」の工場「ドドル・ブタウィ」では、レバラン(断食月明け大祭)前は書き入れ時。煙と木をいぶしたような匂いに混じって時々、甘い香りがした。
ドドルはもち米やココナツミルク、黒糖などの砂糖を長時間煮詰めて作るお菓子で、各地域でそれぞれ味付けに特徴がある。ジャカルタでは土着民族ブタウィの名を取って、「ドドル・ブタウィ」と呼ばれる。もっちりとした食感で、ココナツの甘さがやさしい。
作り方を指導しているのはルディ・ハディ・ルスワドイオさん(43)。口数は少ないが、材料の質、砂糖の量やココナツミルクを入れるタイミング、混ぜ方などに、厳しく目を光らせている。「煮詰める時間は、2時間から8時間までドドルによって異なる。レバラン前は最も忙しい」と話す。通常の5倍は売れるという。
鍋は九つ。隣近所にも別の作業場があり、20人以上が働き、15の鍋でドドルが作られている。すべて手作業で、煮詰める温度は、混ぜる時の力加減や沸騰の具合などで判断。時折、手や腕を真っ黒に染めながら薪をくべる。はだしで踏ん張りながら、船のオールのような長さ1メートルを超える木べらを使い、素早く混ぜる。足の裏はすすで真っ黒だ。
薄い茶からこげ茶や黒へと色を変えていくドドル。煮詰まってねっとりとしたドドルはどっしりと重く、かき混ぜる度に白い湯気が上がって熱い。ここで20年以上働いているアリンさん(42)は「とにかく力がいるんだ」とたくましい腕を見せてくれた。
客をもてなす菓子として定番だが、牛肉をココナツミルクで煮込む「ルンダン」などの料理の材料にも使われる。帰省した家族や集まった客にたくさん菓子を振る舞うレバラン前ということもあり、オートバイで次々と客が訪れ、一つ1.5キロのドドルを数十個ほどまとめて買っていく。価格は一つ7万5千ルピアだ。
「ちょっと味見してよ」とスプーン片手にルディさんに声をかけたのは、サルビーさん(62)。働く男たちのため、毎日ご飯を作っている。この日の昼食は白米と野菜の炒めもの、アヤム・バカールなど。おいしいご飯が毎日の力仕事を支えている。
サルビーさんは「ジャカルタにドドル・ブタウィの店はたくさんあるけれど、一番おいしいのは絶対にこの店よ!」と自信たっぷりに語った。(毛利春香、写真も)