「国民和解」へ第一歩 9.30事件 初の政府共催シンポ

 1965年9月30日に発生した共産党系将校のクーデター未遂「9.30事件」に関するシンポジウム「1965の悲劇〜歴史的アプローチ」が18、19の両日、中央ジャカルタのホテル・アルヤドゥタで開かれた。ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領が数百万人の国民に影響を与えた歴史的事件の解決策を模索する必要があると表明したことを受け、スハルト政権崩壊後、初めて政府共催という形で協議の場が設けられたが、「赤狩り」を主導した軍当局の反発もあり、「国民和解」への道は今なお険しいことがうかがえた。

 シンポジウムの実行委員長はアグス・ウィジョヨ国防研究所所長(退役軍人)が務め、開幕式にはルフット・パンジャイタン政治・法務・治安調整相(同)、ヤソナ・ラオリ法務人権相、チャフヨ・クモロ内相、プラスティヨ検事総長ら政府高官が出席した。
 また、全国各地からインドネシア共産党(PKI)支持者の虐殺にかかわった退役軍人やイスラム団体、自警団、被害者側からは遺族やPKI幹部の親族、人権団体、非政府組織(NGO)のメンバーら計数百人が参加した。
 ルフット調整相は18日、開幕式で事件について「政府が謝罪することはない。どこの誰に対して謝罪を表明するかも分からない」との見解を示し、50万〜数百万人とも指摘される犠牲者数も1千人ほどに過ぎないと強調した。
 シンポジウム開催の目的として、アグス国防研究所所長は「発生から50年経過した事件の解決策を模索すること」としたうえで、「政府がこれまで提示してきた和解案は被害者に受け入れられてこなかった。真相究明を図るとともに、法的決着より和解を優先させたい」と呼びかけた。
■次世代に伝える
 インドネシア最大のイスラム団体ナフダトゥール・ウラマ(NU)やムハマディヤ、自警団のプムダ・パンチャシラ幹部らも参加した。
 陸軍と共に虐殺に加担したNU自警団について、調査を進めてきたマルスディ・スフッドNU事務局長は「高齢になった当時の関係者の口は重い。しかし虐殺の事実を認めたうえで次世代に伝え、被害者や遺族との和解を図らなければ前に進めない」と話した。
 中部ジャワ州スマラン市のNGOは、同市で昨年、集団埋葬された虐殺被害者の共同墓地を掘り起こし、市や陸軍、イスラム団体、遺族が再埋葬した事例を挙げ、「政府が和解に向けた活動を法的に保証すれば、歴史的な傷痕を癒やすことにつながる」と強調した。
 政府は作業部会を設置し、シンポジウムの協議内容を継続審議する方針。 (配島克彦、写真も)

「虐殺は認めてほしい」 「PKI副書記長の娘」 スフェトラナさん

 「政府による謝罪はいらない。ただ、虐殺が起きたことは公式に認めてほしい」
 インドネシア共産党(PKI)のニョト副書記長の長女、スフェトラナ・ダヤニさん(60)はじゃかるた新聞の取材に淡々と話す。ルフット調整相の謝罪拒否発言は政府や国軍が示してきた見解を繰り返しただけとの認識だ。
 父の行方は現在まで明らかになっていない。1966年3月11日。スカルノ政権の国務大臣を務めていたニョト氏は何者かに拉致された。ジャカルタ湾のプラウスリブで処刑されたとされるが政府から説明を受けたことはない。
 当時、スフェトラナさんら家族も投獄された。母のスタルニ氏は13年間の獄中生活を余儀なくされた。「裁判もなく、母が何をとがめられたのかは分からない。父は家庭に党の活動を持ち込まなかった。当時小学生だった私が知っていたのは、父は大臣でレクラ(PKI系文化団体)の創立者ということだけ。レクラが開催したルドゥルック(大衆演劇)やワヤン(影絵芝居)を父と一緒によく見に行ったが、あくまで子どもの娯楽に過ぎなかった」。歴史の教科書で、初めて父はPKIの副書記長だったと知った。
 母は中部ジャワ州ソロのマンクヌガラン王家の生まれ。親族を頼ってソロの学校に通った。その後母は釈放されたが、スハルト政権当時、元PKI幹部の親族は厳しい弾圧を受け、ドイツのコンサルタント、英国の企業など職を転々とした。
 スハルト政権崩壊から十数年経ったが、常に監視されていると感じる。2013年にジョクジャカルタで開かれた犠牲者・遺族支援の会合を手伝ったことがある。肥料の作り方の実習で、参加者30人の小さな集まりにもかかわらず、「共産主義者復活の動き」と訴える集団に襲撃された。主婦対象の料理教室を開いただけでも軍当局者がやって来る。「当時の被害者も高齢になった。貧しい生活を送っている人も多いが、支援活動も十分にできない」(配島克彦、写真も)

社会 の最新記事

関連記事

本日の紙面

JJC

人気連載

クナパくんとブギニ先生NEW

私のじゃかるた時代NEW

編集長の1枚NEW

キャッチアイ おすすめニュースNEW

インドネシア企業名鑑NEW

事例で学ぶ 経営の危機管理

注目ニュース

マサシッ⁉

天皇皇后両陛下インドネシアご訪問

トップ インタビュー

モナスにそよぐ風

HALO-HALOフィリピン

別刷り特集

忘れ得ぬ人々

有料版PDF

修郎先生の事件簿

メラプティ

子育て相談

これで納得税務相談

おすすめ観光情報

為替経済Weekly