スンダクラパ港 更地に 住宅密集地を強制撤去 海洋博物館に緑地公園 北ジャカルタ区 オランダ時代の建物残す
ジャカルタ特別州政府は11日、北ジャカルタ区プンジャリンガン郡にあるスンダクラパ港や海洋博物館周辺の住宅密集地を強制撤去した。同郡ルアル・バタンにあるモスクや海洋博物館、魚市場などオランダ植民地時代の建物を残し、周辺を緑地公園にして国際的な観光地を目指す。
住居撤去は同日午前8時ごろから実施し、夕方まで続いた。州政府は同地域を五つに分け、段階的に違法住居を撤去する。計5万6千平方メートル、2千世帯が対象。11日に撤去されたのは海洋博物館周辺(第1地区)と魚市場周辺(第2地区)、スンダクラパ港周辺(第3地区)の計3地区。ルアル・バタン地区を含む残りの第4、5地区は来月に取り壊す予定という。
北ジャカルタ区は3月下旬から、撤去対象の家屋や売店(キオス)などを所有する住民らに対し、自主撤去を促すための周知活動を3度実施してきた。この日の強制撤去では11台のショベルカーを投入。撤去を拒み自宅に居座る住民らを運び出し正午までに第1、2地区のほとんどが取り壊された。午後2時ごろには、スンダクラパ港の船着場周辺に到達し、次々と更地にしていった。
同地で10年以上漁師として働くタジュディンさん(63)は「ついにこの日が来てしまった」と話す。普段は海に出てイワシを捕り、魚市場に卸す。南スラウェシ州マカッサル出身。
単身で働きに来たタジュディンさんはジャカルタの住民登録証(KTP)を持っていないため、州政府がKTP保有者に移転先として提示する公営住宅(ルマススン)には入居できない。「家財は一式、小舟に詰め込んだ。しばらくは舟の上で寝泊まりする。収穫した魚はムアラ・アンケの市場で売るつもり。どんなにお金がなくても舟は売らない」と話した。
撤去当日までスンダクラパ港周辺に居座った漁師のダフリさん(45)は、緑化公園の建設計画について「欧米や日本、韓国などの観光客はいまの状態でも訪れる。モスクへ行って、伝統的な市場や港だけでなく、この街の雰囲気を楽しんでもらっている。わざわざ変える必要もないのではないか」と憤りをあらわにした。
州政府は交易都市として栄えたバタビア(ジャカルタ)で最も歴史のある地区であるスンダクラパ港周辺の再開発に着手。ルアル・バタン・モスクと海洋博物館は改築し、緑地公園内のシンボルにする。スンダクラパ港の護岸整備も進める計画だ。
モスクは18世紀初頭、イエメンのイスラム伝道師が建てた現存するジャカルタ最古のモスクの一つ。海洋博物館はオランダの東インド会社(VOC)の倉庫で、日本占領下では武器庫として使用された。(山本康行、写真も)