租税特赦法案大詰め 海外資金環流で税収増 国会審議賛否両論
タックス・アムネスティ(租税特赦)法案の審議が大詰めを迎えている。審議を始めた2016年の補正予算に影響する重要法案だが、国会で賛否両論が渦巻き、可決に時間がかかっている。脱税目的などで海外に持ち出された資金の環流で税収増を見込むが、効果を疑問視する声もある。
タックス・アムネスティは、脱税などの目的で海外に資金を移した者に対し、訴追せずに納税を免除、あるいは一部免除する措置。タックス・アムネスティを導入すれば、昨年の税収の約1割にあたる100兆ルピア以上の税収増が見込めるとの見方がある。
財務省が原油価格の下落で下方修正を検討している歳入を支える対策の一つとして期待をかける法案で、昨年から議論が続いている。インドネシアの税収は各国の経済規模で比較すると、他の東南アジア主要国に比べ低く、以前から税収増が課題といわれている。
副大統領首席専門補佐官(経済担当)のソフヤン・ワナンディ氏は1998年のアジア通貨危機以降、多くの財閥は海外に資産を置くようになったと指摘。バンバン・ブロジョヌゴロ財務相は海外に2700兆ルピア(約1950億ドル)もの資産があり、国内には納税義務を怠っている資産が1400兆ルピアほどあるとの試算を出している。
現時点の法案では、全ての納税者に租税特赦を受ける権利が与えられ、申請者は国内の指定銀行への預け入れが義務付けられる。国内資産の租税特赦では、法案成立後3カ月以内が2%、4〜6カ月以内が4%の税率となっている。海外資産の場合、3カ月以内が1%、4〜6カ月以内が2%とさらに税率は低い。現在は法人税が25%ほどで、個人の所得税は原則最大30%となっているため、大部分の納税を免除することになる。
ロイター通信が情報機関の話として伝えたところによると、インドネシアからシンガポールへ流れている資金は2千億ドルと、バンバン財務相の試算以上に存在するともいわれており、インドネシア政府はシンガポールやスイスなどからインドネシアに資金を還元したい考えだ。国営大手銀行幹部は「租税特赦法により資金が還元すれば、富裕層向けのビジネスに追い風」と期待を込める。
フィルマン・スバギヨ国会副議長(ゴルカル党)は23日、「収入の規定について国会内で賛否がある」と指摘。租税特赦法案の税収効果を疑問視する声があり、議論が続いていると説明した。
租税特赦法案に反対するグリンドラ党議員は「租税特赦を認めてしまえば、社会の秩序が乱れる。政府はまず徴税のあり方を見直すべきだ」と語り、国民の間に不公平感が生じることに懸念を示した。(佐藤拓也)