沈む村、とどまる住民 水位233メートルに ボートで観光業も 西ジャワ州スメダン ジャティグデ・ダム
西ジャワ州スメダン県チマヌク川のジャティグデ・ダムの水位が28日、海抜233メートルに達した。貯水開始から約5カ月。六つの村がダム湖に水没し、住民は同州政府が建設を進める住宅地への移住を始めた。水が眼下に迫るなか、新しい仕事を始める住人の姿があった。
水没間近のスメダン県ダルマラジャ郡チパク村を23日に訪れた。住民が自ら仕事を考え、稼いだお金は住民で分けて生活費の足しにしていた。
解体された学校や民家が並ぶ道路の所々に「観光船」の看板。そちらへ向かうと水が迫る道路に停泊するボート2隻があった。住民によると、沈む村を一目見ようとする観光客は増加。約10分1万ルピアでダム湖を回るボートは好評だという。11月ごろから村の入り口に料金所を設け、車やオートバイで来る人から3千ルピアを徴収している。
チパク村ババカンに住む農家のアデさん(58)は釣りざおを手に「夢のようで信じられない。何をすればいいのか分からない」とつぶやく。ダム湖で釣りをする住民は多く、釣れるのは小さなコイやスズキの仲間。売り物にはならず、その日の食事にしている。
樹木の伐採は違法だが、切り株や木材が村の所々にみられるようになった。「ここも沈んでしまうからね」と伐採業者は話す。
チパク村には7世紀ごろに栄えたスメダンララン王国のアジ・プティ王家の墓が点在する。
毎日参拝していたアワイさんは「昨日は浮かびながら墓の上部に額をつけて参拝した」と話した。この日も2人の息子と一緒に浮き輪を持って参拝を試みたが、水中の墓に触れられなかった。
自宅前の道路は緩い下り坂で、水は5メートル手前まで迫っている。「もう電気が来なくなった。でもここを離れない。私が生まれた場所だから」
国内2番目の規模を持つジャティグデ・ダムは昨年完成し、8月31日に貯水が始まった。当初の水位目標の海抜221メートルはすでに到達している。立ち退きの補償では移住先の住居費に1億2200万ルピアと見舞金2900万ルピアが支払われるが、就職先の紹介はない。(中島昭浩、写真も)