手話で「こんにちは!」 南タンゲラン イ初のろう者カフェ
「いらっしゃいませ。ご注文は?」。手の動きで次々と言葉が紡がれていく。バンテン州南タンゲランのピナン通りにある「フィンガートーク・カフェ」はインドネシア初の、ろう者が働くカフェだ。相手の口の動きや手話で注文を取る。飲み物や食事を作る4人は全員、耳が聞こえない。
ディサ・シャキナ・アフダニサさん(25)が2015年5月にオープン。ニカラグアで中南米初のろう者カフェ「カフェ・デ・ソンリサス(笑顔のカフェ)」に出会ったことがきっかけだった。「居心地の良い空間があり、フレンドリーなスタッフと客との明るいやり取りが飛び交う雰囲気に引き込まれた。手話を学んだのもこの時が初めて」。貯金を使い障害者支援が遅れているインドネシアで同カフェをオープンした。ディサさんはシンガポールの銀行で働く傍ら、週末にカフェへ足を運ぶ日々を送る。
ディサさんは「インドネシアでは耳が聞こえない人のことを、脳に問題があると勘違いする人が多い。でも実際は身体的な問題」と話す。同カフェを他地域に展開して雇用の機会を増やすだけでなく、隣のスペースでは仕事に就けるよう裁縫などを学ぶことができる自立支援も広げている。
ウエイターを務めるヌルさん(22)が仕事に就くのはこれが初めて。「サイドメニューのポテトはマッシュする? それともフライドポテト?」と手話を交えて笑顔で尋ねながら注文を取り、テキパキと飲み物や食事を運ぶ。メニューはバリのホテルやレストランで料理人として働いていた経験があるフリスカさん(25)が中心となって開発。料理も教えている。
バリ出身のサリさん(30)は、ジャカルタで就職活動を続けたが「耳が聞こえないことが理由で雇ってもらえなかった」と話す。オートバイの修理やクッキーを作って売るなどしていたが、どれも収入が安定せず長く続かなかった。
サリさんは「ディサさんのカフェに出会えて本当にうれしく感謝の気持ちでいっぱい。働くのがとても楽しい」と笑顔を見せた。サリさんが作るクッキーを販売することもあり、特に子どもたちに大人気で、人を喜ばせられると自信を持てるようにもなった。
ディサさんは「インドネシアでは『耳が聞こえないことは恥ずかしい』と感じる人が多く、人付き合いを恐がり、ろう者同士で親交を深める人がほとんど」と話す。「でもこのカフェでは皆が笑顔で楽しく働き、お客さんとも会話ができる。耳が聞こえないことは、ほんの小さな問題なのかもしれない」(毛利春香、写真も)