爆弾があるのよ 気遣う人々がいる サリナ前テロ事件
ジャカルタ・サリナデパート前交差点で14日起きたテロ事件。出社途中、予想もしなかった出来事に遭遇した2人の女性記者は、事件に驚きながら見知らぬインドネシアの人の心遣いにも触れる。
中央ジャカルタの高級モール「プラザ・インドネシア」裏にある下町クボン・カチャンを歩いていた午前10時50分ごろ、遠くで「ドン」という音を聞いた。何が起こっているかわからなかった。すれ違いざまに「爆弾だ! 気を付けろ」と声をかけられた。
ワヒッド・ハシム通りに出るとオートバイと人で混雑していた。午前11時前、再び爆発音を聞いた。数分後に3度目の爆発音。その後すぐ、5〜6発の銃声が聞こえた。これはテロかもしれない。タムリン通りに目を向けると、スターバックス前からうっすらと白い煙が漂う。タムリン通りの中央を、銃を持った数人が走り抜けた。
爆発音や銃声の度に悲鳴が上がり、タムリン通りから大勢の人がワヒット・ハシム通りに逃げ込んできた。同地にあるオフィスビルで働く人が多く、制服姿でカバンや昼ご飯を手に、友人と手をつなぎながら走る人、恐怖で涙を拭っている人もいた。
「爆弾だ! どこへいくの。危ないからそっちはだめだ!」。タムリン通りへ足を進めると何度も呼び止められる。グドゥン・ジャヤから逃げてきたという女性は私の腕をつかんで引っ張り、「爆弾があるのよ! 家はどこ?危ないから早く帰りなさい」とまくし立てた。
同11時30分ごろにはワヒッド・ハシム通りからタムリン通りへは入れなくなったが、大勢の人が駆けつけ、静かなサリナ前の交差点を見つめた。警官は「犯人はまだわからない」と話し、スナイパーらテロ犯が複数人逃げており、サリナデパートやスカイラインビルに潜伏していると説明。時々、銃声も聞こえた。サリナに残されていた市民らは、銃を持った警察官や軍人らに先導されながら、走って逃げ出していた。
スターバックス前の駐車場で爆発が発生したため、ワヒッド・ハシム通りに駐車されていた乗用車にも爆弾が積まれている可能性があるとして、急きょ爆弾処理班がかけつける騒ぎもあった。
じゃかるた新聞のあるムナラ・タムリンでは、逃げたテロ犯が侵入する可能性があるとして、ビル外にいた人には同敷地内の裏口に集められた。オフィス内にいた社員らには残るよう指示。人の出入りを禁止し、警備員と警察が監視にあたった。(毛利春香)
事務所を開放
タムリン通りをサリナデパートへ向かって歩いていた午前10時50分ごろだった。モール・プラザインドネシア前を通過したとき、サリナデパート前の辺りで右から左へと、雪崩のように押し寄せる人の山が見えた。一体何が起きたのか、まだ、見当がつかなかった。そこからさらに150メートルほど進んで日本大使館を通り過ぎると、「爆弾!」と叫びながらこちらに向かって走ってくる人々の波に飲まれ、私も後ずさった。
普段は関係者以外立ち入り禁止となっている大使館横のアパート建設現場では、警備員や作業員が「外は危険。事務所に入れ」と逃げてきた人たちに対して建設現場内の仮設事務所を待機所として開放。事務所2階では「爆弾か」「テロか」「単なる事故か」などさまざまな臆測が飛び交い、みな事務所の窓からおそるおそる外の様子をうかがっていた。
その後も現場から500メートル離れた事務所2階からも小さく爆発音が複数回聞こえた。
午前11時ごろ事務所の外に出ると、警察が規制線を張り、警察車両や救急車が猛スピードで現場に駆けつける騒然とした様子が目に飛び込んできた。
おそるおそる事件後の現場に近づくと信じがたい光景が広がっていた。道路に横たわる人の姿が今も目に焼き付いて離れない。(木村綾)