がれきに響く笑い声 ブキット・ドゥリ 洪水対策で取り壊し
「43年間、洪水と共に暮らしてきた。水位が3メートルを超えることもある」。12日、テガさん(43)の自宅前にがれきの山ができた。ジャカルタ特別州政府が、南ジャカルタ区テベットにあるブキット・ドゥリで住宅を撤去し始めたからだ。
この地域は毎年雨期になると、隣接するチリウン川の増で洪水が頻発する。川幅を広げ堤防を設ける同州政府の対策のため住居が取り壊された。テガさんは妻と8歳の娘の3人家族で暮らす。チリウン川近くの自宅は強制撤去からぎりぎり免れたが、目の前で実施された取り壊しの影響で自宅の壁は壊され、室内にがれきが散乱していた。
「ジャカルタにとって洪水対策は必要なのかもしれないが、私は親しみのある土地から引っ越したくない。強い力で押しつけるアホック知事のやり方には賛成できない」とテガさん。自宅そばに住んでいた友人らは公営住宅(ルマススン)に引っ越してしまい誰もいない。「家族のように毎日一緒に暮らしてきたのに。遠く離れてしまってさみしい」と話した。
一方、がれきの山から細い腕でれんがを集めるジュミさん(82)は笑顔だ。「一つ200ルピアで売れる。家の修理にも使えるの」。学校帰りの子どもたちもがれきの山に登り、形の崩れていないれんがを集めた。むきだしになった家の鉄筋は、男たちが工具を使って集める。1キロ2千ルピアで売れるという。
子どもたちにとっては格好の遊び場。大人からの「危ないよ!」の声を背に、お菓子を食べながら散策。住民が消えたがれきの山に笑い声が響いた。
ブキット・ドゥリの下流にあたる東ジャカルタ区カンプンプロでは、同様の洪水対策で昨年8月、川岸の住宅が取り壊され、500世帯以上が強制撤去された。チリウン川沿いの強制撤去は今回で完了し、護岸整備が急ピッチで進められることになる。(毛利春香、写真も)