【古都ソロで起きたこと】番外 ――9.30事件 50年 博物館を訪ねて
ソロからジャカルタに戻り、東ジャカルタにある「共産党の裏切り」博物館を訪れた。共産党によるクーデター未遂事件「9.30事件」で殺害された将軍が埋められた井戸の跡と7人の将軍の碑が建っている。博物館内には共産党の「悪行」がジオラマで展示されている。
事件をすばやく鎮圧し、容共とみられた当時のスカルノ大統領から権力を奪ったスハルト少将は、共産党関係者の掃討を進め、インドネシア各地で50万人以上が虐殺の犠牲になった。
米国で公開された外交文書から、この虐殺には米国政府やCIA(米中央情報局)が関与し、大統領就任前からスハルトに対し多額の資金が提供されたことが分かってきた。東西冷戦下で日本を含む資本主義国は、共産主義勢力を抑え込みたいという思惑があった。そのためスハルト独裁体制をODA(政府開発援助)などで30年以上にわたって支えた。日本政府やマスコミも大虐殺があったことを知りながら詳しく伝えなかった。
軍人でない、しかもソロ出身のジョコウィ大統領に虐殺事件の真相を究明する期待は大きい。しかし加害者側には政界や財界など社会の中枢で活躍する人が多い。
「ジョコウィ大統領が虐殺を謝罪するといううわさが流れただけで、政権内から反対論が出た」と、長年インドネシア研究を続けている倉沢愛子・慶応大学名誉教授は言い、真相解明には悲観的だ。
スハルト大統領が建てた「共産党の裏切り」博物館には、連日小中学生が遠足で訪れる。そしてスハルト体制が終わって17年が経った今も、全国から多くの見学者が訪れている。
10月1日には同じ敷地内のルバンブアヤ記念碑前で、ジョコウィ大統領が「共産党関係者への謝罪はしない」と発言した。
被害者らは落胆したことだろう。今回私がソロで会った人たちも高齢化が進んでいる。家族のためにも罪のない被害者に対する早期の名誉回復や補償が必要だと思う。(紀行作家・小松邦康、写真も)