紙芝居で津波語り継ぐ 高台に逃げた「スモン君」 アチェ州シムル島の教訓

 アチェ州シムル島の津波の教訓が紙芝居になって広がっている。防災研究を続ける立教大学アジア地域研究所の高藤洋子さんらが中心となり製作し、昨年末から3週間にわたり、アチェやジャカルタ各地の学校・施設など20カ所以上で上演。語り部やボランティア、教員・生徒らとともに、楽しみながら防災意識を根付かせる試みだ。

100年前の教え  
 2006年、アチェ大津波の復興ボランティアとして、高藤さんは同州ニアス島に入り、近くのシムル島に伝わる口承文芸を使った防災文化の話を聞いた。
 シムル島では1907年に発生した津波で多くの人が亡くなった経験を「スモン(地元の言葉で津波の意味)」と呼び、島の四行詩「ナンドン」に取り入れた。「地震が来たら(一人でもいいから)勝手に高台に逃げる」という教えだ。この教訓が語り継がれ、04年の大津波では震源に最も近い島にもかかわらず、島の犠牲者は7人にとどまった。 
 高藤さんはこの話に関心を抱き、09年から現地で調査・研究を始めた。「この文化を他の地域の人々にも知ってほしいと思った」と振り返る。島民からも、語り継がれてきた「スモン」を別の形で残したいとの要望があり、日本の紙芝居を使って広めようと考えたという。紙芝居「スモン」は、島に住むスモンという少年が主人公。津波で高台に逃げた日に生まれたから名前がついたという話を、自分のおばあさんから聞くというストーリー。 
 実際にスモン君のモデルになった少年や、100年以上前の津波の経験を被災したかのように語るおばあさんの話を基に作った。絵は高藤さんの活動に関心を持った人々がボランティアとして協力。島で採れる魚や風景、伝統衣装、小物など10年前の描写にこだわって色づけした。こうして1年かけて紙芝居が完成した。
  
楽しんで続ける 
 紙芝居「スモン」の上演にはアチェ出身の語り部、アグス・ヌル・アラムさんも参加。アチェの口承芸能の継承者で、テレビや映画などでも活躍するアグスさんの軽妙な話芸が主人公スモン君に命を吹き込む。  昨年12月にはジャカルタ日本人学校(JJS)で披露した。子どもたちから「インドネシアで大地震があったなんて知らなかった」などと感想が出た。ジャカルタをはじめ、メダンやバンダアチェなど各地の学校、文化施設で巡演した。 
 バンダアチェでは、事前に渡した紙芝居のシナリオを基に高校生がミュージカルにしたり、語学学校で日本語を学ぶ学生は日本語で読んだりした。津波博物館でも上演。紙芝居をポストカードサイズにしたミニチュア版が同館に展示されることも決まった。高藤さんは「防災は楽しんで続けることが大切。紙芝居でどう楽しめるか、話し合ってもらえたら」と話す。

仙台から世界へ
 高藤さんは防災を「日常に根付かせることが必要」と話す。大津波から10年。「これは神様から与えられた試練。神様は乗り越えられない試練は与えない」と話す人が多いが、「これがインドネシアの人々の精神的な強さ」と高藤さんは指摘する。津波で家は流されても、復興でもっと頑丈な家を作ることができたと笑顔で話す様子が印象的だという。
  シムル島には日本赤十字が建設した病院や日本の支援で建てられた住宅もある。復興でシムル島と日本の距離が近づいたと実感している。  高藤さんは今年3月、仙台市で開かれる世界防災会議で、各国から訪れる参加者を前に紙芝居を披露し、シムル島生まれの口承文芸であるスモンを世界に伝える予定だ。(西村百合恵、写真も)

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