中国、際立つ外交戦術 新大統領歓迎ムード演出
ジョコウィ大統領の外交デビューとなったアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議から東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議にかけての一連の外交日程は、APEC主催国という強みを生かした中国の巧みな外交戦術が際立った。
「投資のチャンスだ」。ジョコウィ氏はAPECに合わせて北京で開かれたCEO(最高経営責任者)サミットで10日、インフラ整備や農業など新政権が力を入れる分野を紹介し、再三こう呼び掛けた。先月20日に就任したばかりの同氏にとって、初めて立つ国際舞台。ほとんどメモを見ず、英語で経済人らに訴えかけた。
地域のリーダーが集まる場で、新大統領を歓迎するムードを演出したのはホスト国の中国。同国はAPECを、「責任ある大国」をアピールする一大行事と位置づける。前日の9日、習近平国家主席と会談したジョコウィ氏は、資金の半分を中国が出し、新興国にインフラ整備の資金を融資する「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」への加入の意思を伝達し、中国に花を持たせた。
中国の地ならしは入念だった。3日には、訪イした王毅外相がジョコウィ氏と会談していた。同氏肝いりの「海洋国家」構想に強く賛同し、支援する考えを伝えた。ジョコウィ氏からAIIBへの参加の言質を得たのもこの会談だった。
習氏はAPECの機会を生かし、南シナ海をめぐって対立するベトナムのチュオン・タン・サン国家主席と会談したほか、フィリピンのアキノ大統領とも言葉を交わして対決色を緩和。南シナ海問題の「主戦場」であるASEAN関連首脳会議につなげた結果、批判をトーンダウンさせることに成功した。日米中など8カ国が加わる東アジア首脳会議でも、南シナ海問題で中国を名指しで批判した国はなかった。
中国の海洋進出に対抗する意味でも、島国としてインドネシアと共通点を持つ日本は海洋国家構想に強い関心を持つ。大統領当選直後の8月に、いち早くジャカルタを訪問し、インフラ開発や海洋分野で協力を深めることを確認したのは岸田文雄外相だった。大統領就任式には安倍首相の出席も選択肢の一つに挙ったが、国会会期と重なったことなどもあり、実現しなかった。
周氏と同じ北京でジョコウィ氏と初めて会談した安倍首相だが、海洋分野では「具体的な協力に向けた事務レベルの協議の立ち上げ」で一致するにとどまった。淡泊な印象を受けるが、政権発足直後であり、「海洋国家」の目指す方向性がまだはっきり見えてこないという事情がある。日本外務省関係者は「インドネシアには当然ビジョンがあり、拙速にやってはいけない。われわれには意思も能力も協力の蓄積もある。着実にやっていく」と話した。(道下健弘)