ジャーナリズムの「実験」 コンパスコムがウェブ特集

 大統領選挙が過熱していた6月26日、有力日刊紙コンパスの電子版「コンパスコム」はインターネット上で特集記事「スカルノ精神の争奪」を公開した。大統領選を題材とし、文章と画像や動画を組み合わせ、読者を引き込む。新たなジャーナリズムの「実験」ともいえる取り組みだ。通信回線の制約や収益化など課題は多いが、特集を手がけたヘル・マルギアント副編集長は「必ず解決策がある」と語り、新境地を目指す。
                                       
 新聞各紙がインターネット上で配信する記事は文章のみか、写真がついたものが一般的だ。しかし現在では、画像や動画、アニメーションなどを盛り込んだウェブサイトは珍しくない。特に、読者を引き込む工夫を凝らした記事は「イマーシブ(没入)型」記事などと呼ばれる。2012年に米ニューヨークタイムズがワシントン州の雪崩事故を特集した「スノーフォール」を公開。13年にピュリッツァー賞の特集記事部門に選ばれ、話題を呼んだ。
 コンパスコムが制作した大統領選の特集記事は、プラボウォ氏が大統領選出馬を表明する舞台に東ジャカルタの「ルマ・ポロニア」を選んだことを受け、題材を「大統領選とスカルノ氏」に決めた。ルマ・ポロニアはかつてスカルノ初代大統領が住んだ邸宅で、出馬表明後にプラボウォ陣営の選対本部が置かれた。
 特集は社を挙げて企画したものではなく、ヘル副編集長が独自に発案した。制作は日常業務の合間を縫って行われた。制作スタッフをまとめたヘル氏は「特にこれといった戦略はなかった。どんなものが出来上がるか分からず、完成した特集を見て驚いたスタッフもいた」と言って笑う。ヘル氏を含めスタッフ14人が約1カ月で完成させた。サイトのデザインは米国のテレビドラマの特設サイトなどから着想を得たという。
 特集ページの反響は、9月末までにフェイスブックでシェア(共有)されたのは1600回。ツイッターでのつぶやき(ツイート)はなかった。有力紙の特集としては物足りない印象だが、ここからインドネシア特有の課題が見えてくる。

■課題は通信事情と収益化
 ヘル氏は「マルチメディアを活用したジャーナリズムのあり方を示せた」と胸を張る一方で、「特集は一般記事よりも労力と時間がかかった。国内の通信事情や収益化の課題もある」と語る。
 ヘル氏は通信速度が遅い回線や携帯電話に対応できなかったことで読者を逃した可能性があると見る。日本などの先進国と比較するとインドネシアのインターネット回線は整備の途上だ。特集は動画などを含むため情報量が多く、一般の記事に比べてアクセスに時間がかかる。
 また、パソコンからのアクセスを念頭に制作されたが、現実にはスマートフォンや携帯電話からインターネットを利用する人が特に多い。国内では携帯電話の契約件数が総人口を超え、普及率は115%とする調査もある。処理能力や画面の大きさで制約がある携帯やスマートフォンは情報が多い特集と相性が良いとはいえず、特に携帯電話からのアクセスには十分に対応できなかったようだ。
 他国と共通して収益化が難しいという課題も抱える。ウェブサイト上に広告枠を設け、アクセス数などに応じて広告料を得るのは一般的だが、今回の特集に広告を追加するとサイト全体の情報量が余計に増えてしまうのだという。
 しかし、ヘル氏は「課題には必ず解決策がある」と前向きだ。現在制作中という電子マネーを題材にした特集では、記事そのものに広告としての役割を持たせられないか模索しているという。広告主としては電子マネーを取り扱う銀行が考えられる。これは一般に「ネーティブ広告」などと呼ばれる手法だ。広告記事と一般記事のすみ分けの問題もついて回るが、ヘル氏は「成功するかどうか判断するには時期尚早。やってみて初めて分かること」と話した。
(田村隼哉、写真も)

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