故郷で盛大な結婚式 帰国を迷う介護士 徳島のフィトリさん
徳島県の老人ホームで介護士として5年間勤務しているフィトリさん(28)が、故郷の西ジャワ州クニンガンで結婚した。実家前の庭に椅子を並べ、招待客に食事を振る舞い、歌手やバンドを呼び歌や踊りで盛り上げた。多くの人がお祝いに訪れ、村祭りのような盛大な結婚式だった。
新郎は同じ施設で3年間働いているカマルディンさん(30)。5日後には彼の実家がある南スラウェシのマカッサルでも式を挙げるという。
徳島市に本部がある社会福祉法人・健祥会グループは、2007年から始まったEPA(経済連携協定)に基づきインドネシア人とフィリピン人を介護士候補者として採用した。現在約100人に増えた外国人は施設での重要な働き手になり、8月からはベトナム人も加わる。
フィトリさんはその第1期生で、12年に難関の国家試験に合格した。3期生のカマルディンさんも今年国家試験に合格し、二人は泊まり勤務や責任ある仕事を任されている。
「徳島の人は親切で、お年寄りも優しい人が多い。気候も温暖で、物価も安く、施設の支援も行き届いているので暮らしやすい」とカマルディンさんは話す。
フィトリさんと同期の同僚は結婚後徳島に奥さんを呼び、今月第一子が生まれた。もう一人の同僚も5月に結婚式を挙げた。
「私たちも早く子どもがほしい。父はやっと孫が抱けると喜んでいます。でも職場で日本人の同僚を見ていると、子どもを育て進学させることは大変そう。私たちインドネシア人にできるかしら」とフィトリさんは流暢な日本語で話す。
厚生労働省の試算では、10年後に国内で90万人の介護職の人材が不足するという。そのため国策として外国人を受け入れ始めたが、一番多いインドネシア人でも7年で608人。そのうち将来も日本で働ける国家試験に合格した人は167人しかいない。(いずれも厚生労働省調べ)
そのうえ合格者の中から約50人が帰国している。外国人介護者受け入れ事業を斡旋している公益社団の国際厚生事業団(JICWELS)は、その理由を「家庭の事情」「個人の都合」などとしているが、そうだろうか。20〜30代の男女に共通する不安を抱えて働いているはずだ。
フィトリさんは「私たちの将来はわからない。結婚したけれどインドネシアと日本に別れて暮らすかも」と私に打ち明けた。(紀行作家・小松邦康、写真も)