【ジャカルタFocus】テント数千人の心労、「雨漏りで眠れなかった」 壊れた家、後始末に出費大 洪水村「カンプンプロ」ルポ

 チリウン川流域の洪水村カンプンプロの水没は3週間に及んでいる。住民は苦境に立たされている。同河川の改修のため移転先の団地建設が必要だが、建設もいばらの道だ。
◆5年に一度が1年に一度
 3日、ジャティネガラ・バラットラヤ通り。5車線のうち2車線が洪水村落「カンプンプロ」の被災民のために閉鎖され、そこに寝起きのためのテントが並び、数千人超の洪水被災者が、支援物資で食いつないでいる。路上暮らしは先月11日ごろから3週間に渡り、ストレスがたまる。「出費が増えるし、夜はテントから雨がもれ落ちてくる。昨夜は眠れやしなかったよ」とイアンさん(27)は言う。
 その雨水を集めた川にカンプンは沈んでいた。冠水ではなく、強い流れが町の細い路地を通り抜けている。渦ができているところもある。記者が奥まで入ろうとしたが、救急隊に制止された。なのに子どもたちは路地の水流に乗って遊んでいる。
 アレックスさん(36)はため息をついた。「5年に一度だった大洪水が年に1度になった」。公営市場での仕事は休まない。頭が痛いのは洪水の後始末。家に溜まった30センチ超の泥をはき出し、水圧で壊れた壁、電気系統、水道の修復、生活必需品の補充をしなければならない。大事なものを2階に上げる工夫をしているが、それでも家計の出費は大きい。特に「こんなに長い洪水はいままでなかった」。被害はこれまでで最も大きいだろう。
 チリウン川の流域は80年代から現在にかけて、地方からの流入者で急速に人口が増えた。その集落の多くがカンプンクムと呼ばれる低所得者住居。ジャカルタで住民登録していない世帯も多いとみられる。記者が流域のマンガライのある隣組で現金直接給付(BLSM)の配布状況を聞いたところ、約150世帯中給付を受けていたのは約70世帯。半分以上は、政府には「見えない人々」だ。
◆移転派が増えつつあるが
 市場労働者のファクルルさん(31)は「早く移転したい。州政府が団地を用意できるのをずっと待っている」と話した。同村の移転対象千世帯の一部は、集落付近の16階建てのタワー団地2棟計560室に移る。
 だが、残りたいと考える人も少なくない。スラマトリアディさん(48)さんは移転したくない。夜は水に浸かった家に帰り2階で眠る。「洪水は日常。長い間暮らしてきた。このカンプンが好きなんだ」。川に近づけば移転派、川から離れれば移転反対派。集落のなかでも川からの距離で違いがある。ジョコウイ知事が村を訪れて提案して以来、2派は侃々諤々の議論を続けてきた。だが、いま移転の声が大きくなりつつある。
 このカンプンプロを含むチリウン川流域19キロでの第2期改修は、公共事業省、州政府が昨年末開始を宣言した。2016年内に終了すれば、他の事業とともに流域の大幅な洪水抑止につながると想定される。
 改修に伴い、移転対象は流域に住む約7千世帯、3万4千人。河川、貯水池はほかにもあり、潜在的な対象者はもっと多い。だが、団地の建設候補地はあるが、国と州政府の交渉や手続きが難航し見通しが立っていない。(吉田拓史、写真も)

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