国内ムスリムがシリア参戦 帰国後の影響警戒 テロ対策委   

 内戦が続くシリアで、インドネシアのムスリムがアサド政権打倒を目指す戦闘に加わっている。帰国後、軍事経験を生かしテロに関わる恐れがあるとして、国家テロ対策委員会(BNPT)などは警戒している。  
 首都近郊のバンテン州タンゲラン市で1日、国家警察対テロ特殊部隊との銃撃戦で死亡したヌルル・ハック容疑者(当時28歳)はシリア行きを計画していた。昨年7〜9月、首都圏で相次いだ警察官銃撃事件の実行犯。国家警察はパスポートとビザを押収、同容疑者が渡航の準備を進めていたとみる。
 米国営放送局ボイス・オブ・アメリカのインドネシア語版によると、現在シリアでは外国籍の約1万1千人が反体制派の戦闘に参加。背景には、イスラム・シーア派の一派アラウィ派の強い影響を受ける政権に対するスンニ派からの反発があるとされる。
 インドネシアのムスリムの多くはスンニ派が占める。BNPTはインドネシア国籍の約50人が戦っていると指摘。内戦の情勢次第では、参戦者はさらに増える可能性がある。シリアだけでなく、インドネシアの非政府組織(NGO)や留学生が多いレバノンやイエメン、オマーンなど中東諸国を注視する。
 「過去の苦い経験から学ばなければならない」。BNPTのアンシャアド・ムバイ委員長はこう警鐘する。これまでインドネシアで起きた一連のテロは、1980年代、アフガニスタンの対ソ連戦などに参加した国内出身の過激派によるものだった。
 「アフガン世代、最後の残党」とされるサントソ容疑者は、中部スラウェシ州ポソ県内の軍事訓練所を拠点に異教徒や警察官への襲撃を起こしているとして、反テロ法違反容疑で指名手配されている。
 シリアでは国際テロ組織アルカイダ系とされる武装組織「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」が勢力を拡大。スンニ派のISISは内戦での政権側優位に危機感を募らせており、両勢力による戦闘の激化が結果的にスンニ、シーア両派の対立をあおる恐れがある。
 テロ専門家のヌル・フダ・イスマイル氏は、シリア内戦で先鋭化したインドネシア人が帰国後、シーア派の排斥に加担する可能性を指摘。国外事情がインドネシア国内の宗教寛容に影響を与えることに危機感を示した。

■イスラムの共感 国際支援後押し
 ムスリムが人口の9割以上を占めるインドネシアでは、パレスチナ問題や「アラブの春」をめぐり、ムスリムが迫害されるなどの国外事情に関心は高い。ミャンマーでイスラム系少数民族ロヒンギャが仏教徒の襲撃に遭ったときは、全国規模のデモが起きた。内戦が続くシリアに対し、インドネシアのNGOなど複数の団体がボランティアを送っている。
 NGO「アクシ・チュパット・タンガップ(ACT)」は医療団を派遣。内戦の激化で団員をシリアの周辺国に退避させたが、シリア国内のインドネシア人大学生と協力し活動を続けている。
 ACTのイマム・アクバリ副代表はインドネシア人のシリア国民に対する同情心が強いことを強調。人道主義に基づいた支援だと前置きし、「遠い国の兄弟を助けなければならないという国民感情が活動を後押ししている」と話した。
 インドネシアのNGOや学生が戦闘に加わっているとの見方があるのに対し、テロ専門家のイスマイル氏は「戦闘や支援に参加するムスリムは同じムスリムを助けたいという思いでシリアに入っている。彼らをテロの温床と危険視し、区別するのは難しい」と指摘した。(上松亮介、アリヨ記者)

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