歴史認識に突き刺さる 独立前の抗日決起 映画評「追跡」きょう公開

 インドネシア独立を前に、日本軍が育てたインドネシア人軍事組織である郷土独立義勇軍(PETA)の抗日決起があった事実を、どれだけの日本人が知っているだろうか。決起事件に題材を取ったプラムディヤ・アナンタ・トゥールの小説を映画化した「追跡」(リチャード・オー監督)が、太平洋戦争で日本が74年前に敗戦を迎えた日に当たる15日、同原作「人間の大地」と併せて公開される。インドネシア独立の前史とは何か。日本人にとっては歴史認識に突き刺さる作品ともなろう。
 9日、スラバヤでプレミア上映を見た。両作品の上映は、関係者と観客全員によるインドネシア国歌斉唱で始まった。17日の独立記念日を控え、インドネシアのナショナリズムに込められた情念に思いをはせた。
 物語は、主人公はPETAの小団長ハルド(アディパティ・ドルクン演じる)とその婚約者、仲間のPETA兵士たち、上官の日本軍将校を中心に展開する。決起、戦闘、友情と裏切り。主人公の中部ジャワ州ブロラへの帰還と追跡……短い時間の間に、一人一人の運命と独立の歴史的瞬間が凝縮される。
 プラムディヤは太平洋戦争後にオランダ側が再植民地化を図る中、独立戦争に身を投じ、逮捕、投獄され、拷問を受けた。獄中で書いた「追跡」が出世作となる。ブロラは自身の出身地だ。

■普遍的な人間性

 オー監督は私のインタビューで「日本軍占領期の史実を題材としている。ただ、映画では日本は背景としての扱いだ」と前置きした。
 「プラムディヤは実は、インドネシアに焦点を当てている。外部の力によって追い詰められた人々の状況だ。彼は一人一人の人間の相互作用に、より引きつけられている。人間は裏切ったとしても、全てにおいて裏切ることはできない。ヒューマニストだ」
 プラムディヤはその考え方を、インドネシアの女性解放、民族主義の先駆者であるカルティニから得た、とオー監督は指摘する。
 映画には、ハルドの婚約者の女性教師が、束縛からの解放を意味する「Emancipatie」というオランダ語を板書するシーンがある。「カルティニの思いだ。『頭の中に閉じ込められなければ、あなたは自由だ』ということだ」
 監督を引き受けたのは「主題が、インドネシアにとって今日的な意味があると考えたからだ。国民や人間という概念において、人々が分極化している現状がある」と明かした。
 映画で私が一点気になったのは、日本兵の所作が、日本人の目からは「外国人が演じている」と感じられてしまうところだ。ディテールではあるが、日本の映画人の本格的な協力があれば、描写のリアリティーがさらに高められたのでは、と思う。(米元文秋、写真も)

社会 の最新記事

関連記事

本日の紙面

JJC

人気連載

天皇皇后両陛下インドネシアご訪問NEW

ぶらり  インドネシアNEW

有料版PDFNEW

「探訪」

トップ インタビュー

モナスにそよぐ風

今日は心の日曜日

インドネシア人記者の目

HALO-HALOフィリピン

別刷り特集

忘れ得ぬ人々

スナン・スナン

お知らせ

JJC理事会

修郎先生の事件簿

これで納得税務相談

不思議インドネシア

おすすめ観光情報

為替経済Weekly