【この店おすすめ】「珍品」扱いの絶品刺身
マナドから車で約1時間。ミナハサ半島北東部にある港町ビトゥンは、東部インドネシアで獲れるカツオやマグロの水揚げ基地になっている。
刺身として食べる文化は地元にはないが、「初めて食べてからすっかり気に入ってしまった」と話すのは、石材店で働くジェミ・カロさん(37)。「カツオの刺身を用意している食堂は少ないが、北スラウェシ州知事お気に入りの食堂があるよ」と教えてくれた。
食堂は家族で20年前から経営している。刺身用のカツオはオーナー夫婦の息子が数日に一度、漁港から約100キロの沖まで出て、一昼夜掛けてカツオを一本釣りする。すぐに氷漬けにして、鮮度を落とさないように気を配っているという。船は長さ15メートル、幅7メートルの中型船で、家族で所有している。
カツオの刺身は700グラムで2万5千ルピア。高層や赤タマネギ、レモン、トウガラシを付け合わせにし、日本メーカーのしょうゆで食べる。揚げたイモと一緒に食べるのが地元スタイルだ。マグロの刺身も同価格で、部位によってはさらに高くなる。冷蔵庫にはぶつ切りにした刺身がラップに巻かれて用意されており、注文を受けたらすぐに提供できるスタイルだ。
同僚たちと同店を訪れるというジェミさんは「最近は地元でも刺身を食べる人が増えている」と話す。カツオの燻製が同市の主な加工品だが、「刺身のおいしさを知ったら、ほとんどのカツオを刺身として食べるようになるかも」と笑う。同市中心部の食堂街にも「Sashimi」と書かれた看板を見つけることができた。
しかし、ビトゥン港では鮮度が魚の卸価格にほとんど影響しないため、市場で取り引きされるほとんどの魚が刺身用として使えず、特定の漁師と契約して仕入れている食堂も多いという。伝統市場では刺身用のカツオやマグロの取り引きはほとんどない。
同市には、日本に向けて輸出されるかつお節工場やマグロの刺身用の加工工場が点在する。カツオも多くが日本へ送られている。「なぜ地元の人はあまり食べないのか」と日本人ながらに思うが、そこは文化の違い。地元の人に言わせると「カツオの燻製に勝るモノなし」という。(文・写真:岡坂泰寛)