【ジョコウィ物語】（２）父方は村長の家系　零細製材業の家庭で育つ

　ジョコウィは貧困層出身。自宅が立ち退きせざるを得なかったこともある。このため庶民の気持ちが分かり、庶民の利益を第一に考えられる庶民派だ―。
　このように大統領選挙で喧伝され、ジョコウィ自身も強調してきた。実際、中部ジャワ州ソロ市長、ジャカルタ特別州知事時代を通じ、低所得層対象の保険、教育プログラムを導入。エリート政治家のリップサービスとは違う、実体験に基づいた対策を講じてきた。
　だがジョコウィの生い立ちはもう少し複雑だ。父方の家系は、ソロ東隣にあるカランアニャル県ゴンダンルジョのクラガン村の村長。曽祖父から引き継いだジョコウィの祖父ウィロ・ミハルジョは計３０年ほど村長を務めた村の名士だった。今の村長ら地元の人々にもジョコウィの家系については語り継がれている。
　「村では終身村長として知られ、父に対する人々の信頼は厚かった。祖父に最もかわいがられていた孫のジョコウィが、祖父から指導者としての資質を受け継いでいると思う」。ウィロの次男ムルヨノ・ヘルランバン（６１）はこう指摘する。
■村長は村のまとめ役
　だが村長と言っても、行政に組み込まれた末端組織の役職ではなく、地方公務員でもない。伝統的な村社会のまとめ役として、小作農である村人たちを世話するのが主な任務。脱穀機などの農具を持っている農家だが、普段は農民たちと汗を流す。「父は生涯農作業をしていた。村長は地元の人々と一緒に仕事も生活も共にするからこそ、村をまとめられる」とムルヨノは言う。
　祖父ウィロはジョコウィが家具業者として独立し、仕事を軌道に乗せたのを見届け、８８年に亡くなった。長男ノトミハルジョは製材業を営み、ムルヨノ自身はソロ南郊スコハルジョ市の教育局の役人になった。村長を引き継いだ親族はいないが、孫のジョコウィは市長、州知事を経て次期大統領に選ばれた。
　ソロは８世紀にマタラム王国が興ったジャワ文化の中心地。王家は周辺広域を支配下に治めた。現在も地域のつながりは強く、人々の交流も盛んだ。ソロ西隣に位置するボヨラリ県の東端には、ソロの空の玄関口、アディスマルモ国際空港がある。
■両親は１８と１６で結婚　
　ジョコウィの父、ノトミハルジョはボヨラリ県グムクルジョ村にある彼の祖父の家へ預けられていた。そこで遊び友達の一人として、スジアトミと知り合う。１９５０年代後半のことで、英国製のオートバイに乗っている若者は皆無だった。しかも長身でハンサムな村長の長男だから、ノトミハルジョは女の子たちの憧れの的。その中から中学生だったスジアトミが彼のハートを射止めた。
　お互いの気持ちを確認してから結婚まではあっという間。１８歳と１６歳の若き男女。当時のジャワで１０代の結婚は珍しくなく、両家の両親とも歓迎した。５９年の独立記念日の直後、８月２３日に盛大な結婚式を挙行した。牛がほふられ、影絵芝居ワヤン・クリットが夜明けまで上演された。
　スジアトミは新婚当時をこう振り返る。「私は高校に進学しなかったことを悔やんでいる。兄のミヨノも進学せず、家業の製材・家具業を継いだ。結局、弟だけが大学まで行った」。末っ子の弟、スティアワン・プラスティヨはスマランの国立ディポヌゴロ大学工学部に進学し、大手国営建設会社ウィジャヤ・カルヤに就職した。兄姉が後にジョコウィを含め子どもの教育を重視するようになったのは、着実に進学、就職した弟を見てきたからだった。
　新婚夫婦はソロへ移転し、スジアトミの父ウィロルジョが手掛けていた製材業を手伝うことを決めた。近隣の森林で伐採された木材を家へ運びノコギリで切りそろえ、窓枠や家具などに使えるような材木にして近くの材木市場で売りさばく。零細な製材業だ。
　ソロはバティック（ろうけつ染め）の一大生産地として古くから栄え、日本を含む海外でもソロ産バティックは知られてきたが、製材や家具は産業としては未発達だった。だがスマランやスラバヤなど商業都市を結ぶ輸送業が盛んな地の利もあり、父や兄と共に少しずつ生産規模を拡大していく。長男ジョコウィが生まれたのは結婚してから２年後、仕事にも慣れ始めた１９６１年だった。（敬称略、配島克彦）

◇―お断り―
　総選挙委員会（ＫＰＵ）が公式開票結果を発表し、ジョコウィ氏の勝利が確定したため、連載「ジョコウィ物語」を再開します。

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