【テーマ2014選挙】(6)地方自治法 13年の光と影 地方分権

 民主化の代名詞の一つともなった地方自治法の施行から13年。分権は大きく進んだが、「住民への行政サービス」が悪化した自治体もある。

■1教室70人、熱気と不満
 教室はにぎやかな声とむんむんとした熱気に包まれていた。幅7メートル、奥行き8メートルで約70人の小学6年生が授業を受ける。日本の教室の半分の広さだ。幅120センチの机一つで3人が勉強する。体が触れたり重なるのは普通で、体の大きい子は机からはみ出てしまう。隣と利き手が違えば、書くこともままならない。
 ここはバンテン州タンゲラン県マウク郡の国立ブアラン・ジャティ第1小学校。児童数630人に対して11教室しかなく、県が定める1クラス20〜30人の3倍の60〜70人が授業を受ける。担任教諭のニャイ・サンティさんは「生徒が多すぎて目が行かず、集中力も続かない」と嘆く。
 シティ・コマリア校長によると20年前は1クラス20人だったが、「ここは学力が高いと人気で生徒が徐々に増えた」という。
 同県では人口増加にともなって、多くの小中高で教室や設備が不足した。ブアラン・ジャティ第1小は深刻な例の一つだ。これまで県政府は「事態を把握しながら手は打たなかった」(シティ校長)。各学校、父兄から不満の声が大きくなり、イスカンダール県知事はようやく昨年12月、県内に4600の教室を新設する方針を示した。
 地方自治法で公共サービスの実施が自治体に移され、独自に教育や医療の質を充実させていく自治体が出る一方で、第1小のようにサービス悪化を放置してきた自治体もある。

■権限分散、汚職も分散
 2001年に地方自治法が施行されて外交と国防・治安、司法、金融、国家財政、宗教を除く全ての権限が地方自治体に移行された。許認可など各種の行政権限を地方が握った結果、汚職も全国に分散した。
 NGO(非政府組織)地方自治運営監視委員会(KPPOD)のロバート・エンディ・ジャウェン代表は「教育や医療予算は地方で汚職に結びつきやすい」と指摘。同委には04年〜13年に正・副首長305人と地方議会議員約2千人の汚職の報告があったという。
 同じバンテン州では昨年12月、汚職撲滅委員会がラトゥ・アトゥット知事を憲法裁判所の判事買収に関与したとして逮捕した。知事が判事にお金を渡してお願いごとをするという信じがたい構図。00年に西ジャワ州から分離して設立された同州は知事一族が州市県に議員や首長を擁しており、一種の「支配体制」に批判が集中した。地方自治善人説では通用しない現実がある。

■自治体数が219増
 地方自治法の施行後、権限を求めて自治体新設が相次ぎ、1998年に州県市合わせて324が、2014年には542に増加した。1.6倍。このうち州は八つ新設された。現在は34州98市410県だ。さらに87の自治体新設が検討中で、いずれも既存自治体からの分離独立である。
 地方への交付金は10〜13年に平均15.7%増えており、自治体乱立でかえって効率が悪くなったり財源の中央依存の高さも問題になったりしている。
 地方活性化策の一つに企業誘致がある。しかし、地方はどこもインフラ不足で地方自治体単独での誘致は難しかった。自治体が分裂して規模が小さくなれば、ますます困難だ。 

■適切な自治、模索続く
 直接選挙で首長を選ぶから、住民の意向を行政に反映させやすくなったことは確かだ。しかし、首長選挙の際に、いろいろな名目で有権者への買収、または類似行為が横行し選挙費用もかさむとして、首長の直接選挙をやめて議会が選ぶ形に戻す議論もある。
 タンゲランから車で少し行けばジャカルタ。ソロ市長として実績を残したジョコウィ氏が12年、州知事に当選。権限をフルに活用して貧困層への教育・医療の無料化など改革を次々と実行している。天然資源の豊富なカリマンタン島各州やアチェ州などは財政が潤うようにもなった。
 さて総選挙、有権者は目先の利益ではなく、何よりも人物の廉潔さや行政能力を判断して選ぶ必要がある。13年の教訓を生かしてほしい。(堀之内健史,写真も)おわり


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