【この店おすすめ】海鮮料理とオジェック
風を感じてどこまでも。外出の時にはいつも、お決まりのオジェックで移動する。今日は昼食を食べたい、どこかおすすめのレストランはないか、と運転手のフルトト・アプリル・ヤディさん(54)に話しかける。「少し遠いが、気に入っている場所がある」とヘルメットを手渡された。
タムリン通りから走ること20分。昼さがりのコタ駅を通過する。周辺は車で渋滞しており、その間を軽やかにすり抜け、フルトトさんが指差したのが海鮮レストラン「ラジャ・クリン」だった。
店先にはいけすがあり、中ではロブスターや貝類、魚が生き生きと動いている。「ここは仲間たちとよく来るんだ」と笑顔を見せた。フルトトさんのおすすめは「ブラックペッパークラブ」(13万8千ルピア)と「スペシャル・フライドライス」(5万3千ルピア)。ジャカルタの街並みを走り、汗をかいた後に飲む「レモンティー」(1万ルピア)は格別だ。
「ブラックペッパークラブ」はアンチョールで獲れたカニを焼いて、少し味の濃いコショウとタマネギのソースを和えたもの。カニは身が締まっていて食べ応え十分。専用のはさみでカニの殻を取る。あっさりとした塩味で鶏肉の揚げ物と目玉焼きがついたスペシャル・フライドライスと相性が良い。カニの殻を取るのに苦戦していると、「貸してごらん」とフルトトさんは上手に中に詰まった身を取ってくれた。
フルトトさんは10年前からオジェックを仕事にしている。趣味はアンチョールで釣りをすること。4人家族で妻と独り立ちした2人の子どもがいる。フルトトさんのオートバイが街中を走り通り過ぎれば、住民やオジェック仲間から「ボーイ」と声を掛けられる。「12年前に、私はここらのオジェックのなかでも最年少だった。その名残で今でもボーイ(少年)と呼ばれているんだ」と照れて笑った。「今はもっと若いオジェックがたくさんいるんだ」
店を出て再びオートバイに乗る。ヘルメットを被ってまた混雑した街へ。「今度はどこに行く?」。風に乗ってフルトトさんの声が聞こえてきた。 (文・写真:山本康行)