【この店おすすめ】中部ジャワを感じて
ジャワの伝統帽子ブランコンを被る店員が迎える。弦楽器の音が聞こえ、インドネシアの大衆音楽クロンチョンだと分かる。暖色の電灯が店内を黄色く染め、壁にはジャワの伝統衣装をはじめとする雑貨品が並ぶ。
午後6時、客は皆、家族や友人とブカプアサを楽しんでいた。断食月、下宿先でお手伝いさんとして働く女の子らのブカプアサ(断食明けの食事)についていった。
5人はジョクジャカルタやクブメンなど皆、中部ジャワから出てきた。最年長のリン・ワルシ・エンガル・サリさん(29)は牛の皮肉をトウガラシソースで和えたオセン・ムルチョン(1人前2万ルピア)を頬張りながら、「この辛さがたまらない」と目を見開いた。
テーブルには、焼き魚をココナッツベースのスープで煮込んだイカン・トンコル(2万ルピア)など中部ジャワ料理が並ぶ。卵を赤砂糖で茹でたテロール・バチェム(7500ルピア)は昨年取材で行ったジョクジャカルタの家庭料理ナシ・グドゥッグを思い起こさせる。
茹でられ、曲線を巻いた皮肉の内側にチャベ(トウガラシ)の種が見える。一口食べると赤タマネギのにおいが鼻に伝わり、トウガラシの辛さを倍増させる。断食中の仕事終わりで少し疲れていたという5人は一気に目が覚めたようだ。私は急いで、アボガドなどが入ったココナッツジュース、エス・ジャクム(1万7500ルピア)を口に流し込んだ。
「ジャワの料理は比較的甘いものが多い」。リンさんの親友ミンタルミさん(29)は辛さに根を上げる私を気遣ってか、インドネシアの代表料理ミー・ゴレン(焼きそば、2万ルピア)を注文した。ジャカルタではあまり見かけない鶏肉のすり身が乗ったミー・ゴレン。一般的な塩っ辛いものではなく、ケチャップ・マニス(甘口しょうゆ)を使った優しい口当たりだった。
断食が明けるレバラン、5人はそれぞれ中部ジャワの故郷に帰る。リンさんは久しぶりに食べる中部ジャワの料理を前に「お母さんを思い出す」と話した。皆、一足早い故郷の味を楽しんでいた。(文・写真:上松亮介)