【この店おすすめ】 シルクロードのサテ・カンビン
職場のオフィスビルにあるコーヒーショップで働くエルミラ・マハラニさん(23)と昼食時、近くに1年前にオープンした新疆料理店を訪れた。
店に到着すると、コンロからもくもくとあがる煙が出迎えてくれた。炭火の上で焼けているのはサテ・カンビン(ヤギ肉の串焼き)だ。
私が選んだのはサテ・カンビン(串5本とロティ=ナン=のセットで4万1800ルピア)。唐辛子とクミンをたっぷり使った独特の香味付けは、学生時代に旅行した中央アジアでの食事を思い出させる。
串には赤身と脂身が交互に刺さっており、繊維質の赤身はうまみがたっぷり。肉一切れあたりのサイズはインドネシアで一般的なサテ・カンビンに比べて大きく、「肉を食べた」という実感が強く沸く。脂身は表面がかりかりで、内部はホルモンのパイプ腸を思わせるジューシーさだ。
体重を気にし、ヤギ肉や牛肉を控えているというエルミラさんはサテ・アヤム(焼き鳥=同セットで3万6300ルピア)を注文。たれを使った本家サテ以外を食べるのは初めてというが、スパイシーな味付けを気に入った様子だ。
店内に目をやれば、中近東からのビジネスマンの姿が目立つ。
それもそのはず、中国人店主のスレマン・ハンさん(39)は20年間、シルクロードの要衝である中国・西安で腕を磨いた人物だ。中国在住のインドネシア人の間で、ウイグル族の民族料理が好評だったことをヒントに、2年前に来イした。ウイグル族と同じムスリムが大半を占めるインドネシアだが、新疆料理を出す店はほとんどないことに商機を感じたという。
最近ではインドネシア人の間でもファンが拡大。スレマンさんは調理や会計だけでなく、サテの焼き加減や手打ち麺の伸ばし方を従業員に手ほどきするなど大忙しだ。
この手打ち麺もスレマンさんおすすめ料理の一つ。何度も折り返し、上下に振り回したり、ねじったりしながら生地の塊が太さ3ミリほどの麺に変わっていく様子は、見ているだけでも楽しめる。
雑然としたワヒッド・ハシム通りにあるが、付近に漂う香ばしい臭いが店舗のありかを教えてくれる。甘い味付けのサテでは物足りなさを感じている、肉好きに勧めたい店だ。(道下健弘、写真も)