海賊被害が倍増 ソマリア抜き、世界最悪に 島しょ国の課題露呈 IMBまとめ

 インドネシアで海賊・海上武装強盗が急増している。国際商業会議所国際海事局(IMB)は昨年1年間に、前年の46件から倍増する81件の被害を確認した。ソマリアの49件を大きく上回り、世界最悪を記録。日本企業が運航する船舶の被害も複数発生している。広大な領海を持つ島しょ国でいかに海の安全を維持していくか、大きな課題を投げかけている。                

 IMBによると、世界全体の27%を占め、過去5年で最も少なかった2009年の15件と比べ、件数は5倍に膨らんだ。増加の直接的な原因ははっきりしない。
 発生場所は北スマトラ州ベラワンやリアウ州ドゥマイ、南カリマンタン州タボネオ、東カリマンタン州サマリンダ周辺、ジャカルタ沖が多い。被害船停泊中の事件が66件、接岸中が7件、航行中が8件。人質になった人数は47人、脅迫被害は4人、暴行被害が3人、けが人は4人だった。少なくとも4件で銃器が使われ、40件が刃物などで武装していた。
 夜間、小型ボートで船舶に接近し、乗員に気付かれないように船内に侵入する手口が典型的。乗船後、犯人は気付かれないように積荷や備品を盗むか、乗員をおどして強奪する。
 日本関係の被害では、昨年3月22日未明、ドゥマイに停泊していたケミカルタンカー(総トン数1万6232トン)に、ロングナイフで武装した6人が2隻のボートで接近し、乗組員1人を人質にした。人質は自力で犯人から逃れたが、エンジンの予備部品が盗まれた。
 タボネオでも12月29日深夜、荷下ろし作業を待っていたばら積み船(同3万488トン)で係留ロープ2本を盗まれた。この船会社によると当時、雨で視界が悪くなっており、犯人の乗った船の接近に気付かなかったという。ほぼ同時刻に、別の船も同様の手口で被害に遭った。転売目的の犯行とみられている。 
 11年の160件から3分の1以下に減少したソマリアの場合は212人が人質になり、2人が死亡した。ほぼ全ての事件で航行中の船を狙い、犯行の8割近くで銃器が使われるなど荒っぽい手口が特徴的。ソマリアに比べれば、インドネシアでは事件全体に占める人身被害の割合は低く、船ごと乗っ取るハイジャック事件の発生もない。
 とはいえ、世界全体でみた場合、海賊発生件数は11年の439件から297件に減り、近隣諸国もマレーシアが16件から12件に、シンガポールが11件から6件に減る中、インドネシアの増加は突出しているといえる。
 海賊問題に詳しい獨協大学の竹田いさみ教授によると、90年代から2000年代初めにかけて、東南アジアでは身代金や船の転売を目的に、原油タンカーなど大型船を狙う国際シンジケートの絡んだ事件が目立ったが、各国の対策が奏功。インドネシアとマレーシア、シンガポールが接するマラッカ海峡など国際連携が進んだ海域での大型事件はほとんどなくなった。一方、インドネシア単独で対策にあたる領海内部で、中・小型船を狙った窃盗事件が目立ってきており、取り締まり能力の向上が課題になっている。
 マレーシアでは06年に発足した海上法令執行庁(MMEA)が国際協力機構(JICA)などを通じた日本からの技術協力もあり、海上安保体制を大きく向上させており、モデルケースになるという。
 海上警察や運輸省、海軍が個別に活動にあたってきたインドネシアでも海の治安や安全、権益を包括的に守るため08年、各機関を連絡・調整する海上保安調整組織(バコルカムラ)を設立。海上保安を一元的に担う新組織の設置の検討も進んでいるが、取り組みは始まったばかりだ。
 日本政府も支援に力を入れている。海上保安庁は来週、巡視船をタンジュンプリオク港に派遣。インドネシア運輸省や海上警察と合同で海賊対処訓練を実施する。(道下健弘)

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