「信頼」で「共創」する未来へ 寄稿  紀谷昌彦ASEAN大使

 昨年は、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の友好協力50周年という記念すべき年にインドネシアがASEAN議長国を務め、さらに日本インドネシア外交関係樹立65周年を迎えるという特別な年となった。
 6月に天皇皇后両陛下がインドネシアをご訪問になり、9月にジャカルタでASEAN関連首脳会議が開催された後、12月には東京で日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議が開催された。
 この特別首脳会議には、ASEAN加盟国(ミャンマーを除く)と東ティモール(オブザーバー)の計10か国から首脳が訪日し、岸田文雄首相とジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領の共同議長のもとで、「日本ASEAN友好協力に関する共同ビジョン・ステートメント」とその「実施計画」が採択された。
 「共同ビジョン・ステートメント」は、「信頼のパートナー」を副題に、(1)「世代を超えた心と心のパートナー」、(2)「未来の経済・社会を共創するパートナー」、(3)「平和と安定のためのパートナー」の3つの柱を打ち出した。「実施計画」は、それに沿った形で130項目にわたる具体的協力が記載された。
 今年は、このビジョンと計画を実行に移す最初の年となる。これから取組を進める上で、重要と考えるポイントを3つ述べたい。
 第一に、心と心の「信頼」関係の更なる発展である。日本とASEANは、1977年の福田ドクトリンで掲げた「心と心のふれ合う相互信頼関係」を長年にわたり培ってきた。これを当然視することなく積み増していく必要がある。そのために、今回発表された、次世代共創パートナーシップ—文化のWA2・0—-(双方向の知的・文化交流事業や日本語パートナーズ事業など)、持続可能な研究者ネットワークの強化、若手ビジネスリーダーのネットワーク作りなどの新たなイニシアティブを最大限に活かしていくことが鍵となる。
 第二に、持続可能な経済社会の「共創」である。成長と進化を続けるASEANは、今や世界の成長センターとなっている。我々自身の認識をアップデートして今のASEANの姿を正確に捉え、エネルギー移行、気候変動、環境、デジタル化、保健、防災などの地球規模課題に対する解決策を、足元から未来に向けて共に創り出すことこそ、日ASEANのこれから進むべき道である。脱炭素化を推進するアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想、次世代自動車産業共創イニシアティブ、連結性強化、スタートアップ支援等の民間投資の後押しなど、幅広い取り組みをスピーディーに進めていくことが大事である。
 第三に、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の促進である。日本が掲げるFOIPとASAENが打ち出した「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」は、本質的な原則を共有している。日ASEANによる協力の成果をインド太平洋から世界にスケールアップして、課題解決と同時に信頼醸成も進めることで、地域と世界に大きく貢献できる。今回、日本はサイバー、人道支援、核軍縮・不拡散、司法分野協力、WPS(女性・平和・安全保障)、防衛交流・協力、OSA(政府安全保障能力強化支援)などの取り組みを新たに打ち出している。これらを活用していきたい。
 私自身、外交の現場に携わる中で、世界を動かすのは「トップダウン」と「ボトムアップ」の組み合わせだと感じている。世界が様々な困難に直面する中、日本とASEAN、インド太平洋と世界の未来を創っていくのは、今を生きる私たち一人ひとりである。各人が日ASEAN間の交流やビジネスを通じて「信頼」を一層深め、「共創」を日々実践することで、地域と世界に「平和と繁栄」の輪を一緒に広げていきたい。

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