学生ローン

 普段、ローカルメディアのニュースを定期的にフォローすることはあまりできていないのだが、たまにインドネシア人の同僚に聞いてみると、意外なニュースが話題になっていることがわかって面白い。この数週間はもっぱら選挙絡みのニュースが大勢を占めているようだが、そんな中で学生ローンについての話題が負けず劣らず各メディアを賑わしていると言う。
 このニュース、バンドン工科大学がオンライン・ローン(インドネシア語では略語でPinjolと呼ばれる)業者とタイアップして、新しい学生向けローンを立ち上げたことに端を発する。貸出期間は6〜12カ月で、金利は巷に溢れているPinjol業者よりも低めではあるが、それでも年利換算すると25%程度。そもそもこんな短い期間の学生ローンは(就職した後の給与で返済する前提ならば)成り立たないし金利も高すぎる、ということで学生たちの反対デモに発展。これがSNSでも拡散されて反響を呼び、ついに先週、財務大臣自らが学生ローンの新スキームを政府として検討することをアナウンスするに至った。
 インドネシアの大学進学率は3〜4割程度まで上がってきているが、授業料の引き上げや都市部の生活費の上昇などから、まだまだ財政的に高等教育にアクセスできていない層が多いと見られている。大学授業料の上昇率が、高卒の親の平均的な賃金上昇率を上回っているとの調査もあり、その傾向が続くようだと、奨学金や学生ローンの拡充は欠かせないだろう。1980年代から政府主導で国営銀行等が窓口となる学生ローン・スキームがあるが、使い勝手が悪く、利用実績はかなり低調という。
 高等教育の財政的な負担をどのように賄っているかは国によってもだいぶバラツキがあるようだ。日本は歴史的に親の家計負担の比率が高く、奨学金も(実質的には学生ローンに近い)貸与型が多いが、教育格差を指摘する声の高まりもあり2020年から所得制限付きの大学教育無償化が導入された。欧州はもともと財政支援が潤沢で家計負担割合は日本の3分の1以下という国も少なくない。米国は、学費の高騰などから悪名高い学生ローン大国と呼ばれるが、給付型の奨学金は充実していて、成績などの要件を満たせば高等教育へのアクセスは悪くはないとも言われている。
 インドネシアも今の低所得層が次世代で中間層へと育っていくという流れをつくっていくには、財政支援も含めた高等教育へのアクセス整備は重要な課題となるだろう。教育は、所得階層の流動化という量的な変化のみならず、人々の意識や考え方に質的な変化ももたらす可能性を秘めている。貧しい農村から出てきた学生が、見ず知らずの級友と席を並べて学ぶうちに、より高い生活水準への欲求が出てきたり、故郷への貢献について真剣に考えるようになったりすることはごく自然なことだろう。
 その観点では、今回の学生ローンの一件は、選挙のニュースをかき分けてでも注目されるべきテーマと言えるかもしれない。これを機に高等教育へのアクセス拡充についての本格的な議論が進むことを期待したい。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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