ベチャ30年ぶり解禁 運行地域は制限へ 三輪人力車
ジャカルタ特別州のアニス・バスウェダン知事がこのほど、約30年ぶりにベチャ(三輪人力車)を解禁する計画を発表し、賛否が噴出している。黙認されてきた一部のカンプン(下町)での運行に制限する考えだが、新たな交通手段が増える中、利用者も減少しており、時代に逆行する施策との批判も出ている。
ベチャ運転手組合によると、州内では、北、西ジャカルタ区のカンプンを中心に約千台のベチャが運行している。アニス知事は「まだベチャを必要としている市民がいる。摘発ではなく、保護すべきだ」と強調し、露天商や漁民などとともに、インフォーマルセクターの保護政策を進めていく考えを示した。
アニス知事の計画では、ベチャは登録制にして数を制限し、運行許可地域を特定、ベチャ専用道路を設ける。大通りへの進入は禁止し、カンプンの路地での運行に制限する。また、サンディアガ・ウノ副知事は観光地での運行を提案している。
これに対し、公共交通専門家のアグス・パンバギオ氏は「観光誘致には活用できるが、現在はオートバイやタクシー、公共バスのトランスジャカルタなど他の交通手段も増え、競合できない」と述べ、安全性など問題点もあると指摘した。
■市場の主婦が利用
現役のベチャが残る北ジャカルタ区カリバル地区。同地区在住で25年以上ベチャ運転手として働いているタルビンさん(51)は、「細々と続けてきたカンプンでの運行が正式に認められるというだけで、大きな変化があるかは分からない」と話す。
利用客は多い時で1日5人、稼ぎは5万ルピアほど。朝夕に魚市場やタンジュンプリオク港、病院などへ行き来する人が多く、荷物を抱えた主婦などが利用しているという。
タルビンさんは以前、中央ジャカルタ区タナアバン周辺でベチャを走らせていた。「1990年代はまだ客も多く1日30人ほどいた。今ではオンラインタクシーなど交通機関が増えたから、ベチャに乗る人が減るのは仕方がないこと」と話す。オートバイは値段が高く、維持費もかかるため、オンラインタクシーには転業せず、ベチャ運転手を続けてきたという。
ベチャは60年代に最盛期を迎え、州内で約16万台が走っていた。大通りの整備が開始されると、アリ・サディキン知事が67年、大通りでの運行やベチャの製造を禁止する政令を発令。90年代に入り、ウィヨゴ・アトモダルミント知事が全廃を宣言し、摘発した7万3千台のベチャをジャカルタ湾に廃棄した上で、運転手の転業、帰郷支援策を打ち出した。その後も運行が禁止され減少の一途をたどったが、密集地など一部地域で運行が黙認されてきた。(毛利春香、写真も)