【貿易風】 遠のく法治国家

 ジョコウィ政権は一部イスラム急進派への圧力を強めている。しかしその手法は法的に問題が多く、将来に禍根を残す恐れがある。 
 宗教的少数派などへの襲撃で知られるイスラム擁護戦線(FPI)のリジック・シハブ(サウジアラビアに逃亡中)には、反ポルノ法違反の容疑で逮捕状が出されている。 
 カリフ制国家樹立を掲げるヒズブット・タフリル・インドネシア(HTI)に対しては、解散が命じられた。5月初旬にその方針が発表されていたが、7月10日に既存の大衆団体法の一部改正を規定する法律代行政令が出され、これに基づいて解散が決定された。 
 いずれもアホック前ジャカルタ特別州知事の「宗教冒とく」への抗議運動に関与した。政権による、急進派へのリベンジやこれら勢力と手を結ぶ野党へのけん制の意図が背景にある。 
 ここで問題にしたいのは、政府による法律の運用についてである。 
 リゼク・シハブの反ポルノ法違反は、わいせつな画像を流出させた疑いによる。しかし、本来取り締まるべきなのは、彼らの暴力行為やヘイトスピーチであろう。 
 大衆団体法に関する法律代行政令は、政府の解釈次第であらゆる組織の非合法化が可能になる危険なものである。同政令が国会で承認されれば、「パンチャシラに反する教義や概念」を持つ組織を行政裁量で解散させることができるようになる。ジョコウィ政権は、HTI解散の正当化のために強引な近道を選んだといえる。 
 さらに懸念すべきは、同政令によって社会的な弱者の権利向上を目指す組織も、パンチャシラすなわち「国家への脅威」として規制の対象になり得ることである。リヤミザード防衛大臣が性的少数者(LGBT)の権利団体をこうした論理で攻撃したことは、記憶に新しい。 
 反ポルノ法や大衆団体法代行政令の問題点は、政府による恣意(しい)的な法律の運用を許すことである。他方、司法機関は権力の乱用を防ぐ能力を持っていない。そのため、法律が政治的武器となり、政府による抑圧や多数派の専制を容易に招いてしまうのである。アホックに対する刑法の宗教冒とく罪の適用と同様である。
(見市建=早稲田大学大学院アジア太平洋研究科准教授)

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