【貿易風】イスラム急進派の区分

 アホック知事の「宗教冒とく」に対して有罪判決を求めて繰り返されたデモの主催者、インドネシア政府が5月8日に非合法化の意向を示した解放党(ヒズブット・タフリル・インドネシア=HTI)、そして26日に起こったテロ事件の首謀者。いずれもイスラム急進派や過激派と呼ばれ、その拡大が懸念されている。しかし組織の目的も成員の性格も規模も異なる。
 ではそれぞれどのような人々なのだろうか。今回はその見取り図を示したい。
 イスラム擁護戦線(FPI)のハビブ・リジック・シハブは、アホック攻撃の最先鋒に立った。FPIは異端とされる勢力や売春宿などの「取り締まり」を自任している。みかじめ料を徴収するともいわれる、いわば「イスラムやくざ」である。設立時から国軍と近い。
 反アホックデモの指導者にはこれまであまり目立ってこなかった人物もいた。その一人ザイトゥン・ラスミンは、サラフィー主義組織ワフダ・イスラミヤを率いる。サラフィー主義は厳格なイスラム法解釈で知られ、例えば女性は目以外すべてを覆うベールを着用する。
 ただ近年はよりインドネシア的な服装を奨励するなど、社会的認知と組織拡大を目指している。マカッサルを本拠地としており、同郷のカラ副大統領は組織の全国大会にも参加している。副大統領は州知事選でアホックの対立候補を担いだ。両者の利害は一致していたのである。
 解放党はイスラム国家樹立を目指す国際運動である。イラクやシリアの混乱から生まれたいわゆるイスラミック・ステート(IS)とは出自が異なり、ISが樹立したと主張する国家の正統性を認めていない。解放党は全国の大学でそれなりに大きな運動に発展してきた。上記の組織のような政治的パトロンがいなかったことが、非合法化の理由の一つだろう。 ISを支持し、テロ事件を起こしているのはジャマア・アンシャルット・ダウラ(JAD)のメンバーである。2002年のバリ島テロなどで有名なジャマア・イスラミヤ(JI)は、ISを支持せず、現在は武装闘争も放棄している。JADはごく少数派である。
 JADの指導者は刑務所におり、テロの実行グループは自立的に動いている。かつてのような大規模な無差別テロは考えにくい。ただ今回のような小規模な事件を完全に防ぐのは不可能である。
 ひとまず、権力闘争に伴う「急進派の台頭」とIS支持勢力によるテロ事件の間には関連性がないことを確認しておきたい。(見市建=早稲田大学大学院アジア太平洋研究科准教授)

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