「家もお金も仕事もない」 沈む村にとどまる住民 補償金未払い 西ジャワ州ジャティグデ・ダム

 先月31日に貯水を開始した西ジャワ州スメダン県チマヌク川のジャティグデ・ダム。1カ月後にはダム湖に水没するダルマラジャ郡チパク村を訪ねると、住民の8割近くが補償を受け取っておらず、政府の見切り発車に困惑していた。
             
 収穫を終えた水田に両側を挟まれたでこぼこ道を抜けると、木造の民家が建ち並ぶ。校庭では制服を着た児童が笑い、商店には食料や生活用品が豊富に並ぶ。住民は通常の生活をしているようで、水没する村には見えない。
 しかし、ところどころで家を解体しており、跡地には廃材が無造作に転がる。補償を受け取り、住む場所が決まった住民は次々と村を去っているようだ。墓地には先祖の墓を掘り返した土を白い布で包んで、新たな墓に移動させる人がいた。
 「水が来たらもちろん逃げる。でも新しい家がない。お金も、仕事もないのにどこにいけばいいの?」。主婦のデデさん(48)が問い返した。いつ補償金を受け取れるのか分からず村にとどまっているという。「政府からは仕事や新居のあっせんもなく、将来の見通しが立たない」。
 立ち退きの補償は建設が決まった時点で住んでいた世帯には1億2200万ルピア、その子ども世代には2900万ルピアが支払われる。チパク村では6割が2900万ルピアを受け取ることになっている。
 しかし中央政府の手続きが遅れるなどの理由で、補償の支払いが済んでいない。補償を受け取った人も移転先も仕事も自分で探さなければならないという。18日までに元々あった家屋630軒中180軒が取り壊された。残っている人のほとんどが補償を受け取っていない。
 住民らによると新たに土地を買って家を建てるためには、最低でも1億ルピアかかる。デデさん(36)は補償金2900万ルピアを受け取ったが、貯金が無く新居を買えない。妻と1歳5カ月の子どもとともに、チパク村の友人が購入した土地に居候する予定だ。その友人も家を建てるお金は無く、テントで暮らす予定だ。
 ダム湖はおよそ7カ月で水深60メートル、面積は4千ヘクタールとなる。貯水能力は9億8千万立方メートルで国内2番目だ。スメダン県だけでなく、マジャレンカ県やチルボン県、インドラマユ県などこれから開発が進む西ジャワ州東北部地域の水がめとなる。
 ダム湖に28村、6郡の1万1千世帯が沈むが、政府はその1割への補償が完了しないまま、先月31日に貯水を開始した。同村に住む文化学者のアキワンサさん(56)は「われわれは開発の犠牲になり、強制的に立ち退かされる。なぜ政府はもっと早く手厚く補償しないのか」と怒りをあらわにした。(堀之内健史、写真も 11面に関連)

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