ASEANの土台作りに貢献 リー氏の功績 スハルト氏と強い絆

 東南アジア諸国連合(ASEAN)の政治的安定、経済的発展の土台作りに、リー・クアンユー元首相が果たした貢献は極めて大きい。ASEANへの依存を深める日本もその恩恵を得ており、安倍首相はもちろん私たちも記憶しておく必要がある。

 日本国内のメディアは安倍首相の葬儀参列について二国間関係を重視しているため、とか韓国大統領との接触のため、などと伝えている。が、日本にとりリー氏の存在ははるかに大きい。その意味はインドネシアで長期政権を担ったスハルト大統領との密接な協力関係に見て取れる。
 筆者は生前のリー氏に何回かインタビューをした。日本経済新聞のコラム「私の履歴書」(1999年1月掲載)の事前取材の中での発言は特に印象深かった。30年にわたったスハルト政権の崩壊(98年5月)について、感想を求めた時のことだ。
 「スハルト氏は残念ながら晩年の不始末(ファミリー問題など)で歴史の中で占めるべき位置に着けなくなった」と絞り出すように語った苦渋の表情をいまも忘れられない。1960年代から東西冷戦の影響で、政治的、軍事的混乱が続いていた東南アジアが安定に向かったきっかけは、68年のスハルト政権の発足である。その際、非共産国で世界最大と言われたインドネシア共産党を壊滅させた。
 インドネシアが目と鼻の先のシンガポール。60年代、国内の共産主義勢力(マラヤ共産党)と戦っていたリー首相はこれで後顧の憂いがなくなった。
 1995年には東南アジア諸国連合(ASEAN)を敵と見ていたベトナムもASEANに加盟を申請、ラオス、カンボジア、ミャンマーも加わり、現在の繁栄する東南アジアが醸成されてきた。その流れをつくるため、スハルト氏が果たした役割を知り尽しているリー氏ならではの発言だったと思う。
 リー氏について日本で逝去後に現れた論調の多くは「小さな島国の発展途上国を経済的に世界の超一等国に育て上げた功績は大きい。半面、言論を統制し国民の自由を考えなかった」というものだろう。
 これこそ、リー氏が「やれやれ」と苦笑する議論だろうと思う。多分「シンガポール国民の生活をもっとよくする方法があったならば教えて欲しい」と反問するだろう。だれよりも一般国民のことを考えていた。汚職を防ぐため官僚の給料を民間より高くしたのは一例に過ぎない。現にシンガポール政府は世界でもっとも清潔との評価が高い。
 シンガポールの街で人々にリー氏政治の評判をよく聞いた。公園の清掃作業員、タクシーの運転手、企業のサラリーマンら日々の生活に汗を流している人たちだ。大半が「生活は良くなっている」だった。「対岸のマレーシア(半世紀前は同じ国)と比べてみたら分かる」と。
 「機能しない理論は意味がない」とリー氏は、自分への批判に反論した。社会保障や少子化、政府の借金など、問題を抱える日本の現状もしっかり見通していた気がする。反共のリー氏を厳しく見ていた共産主義、社会主義の国々の大半も、結局は国民の怒りで打倒された。
 インドネシアでは、民主主義の進展でジョコウィ政権が誕生した。だが、貧富の格差の縮小はなかなか進まない。フィリピンでも民主化の進展でむしろ国民の不平等感が急増、その解決策は見えてこない。リー氏の業績をトータルに再評価する時代が来るにちがいない。(小牧利寿)

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