【BPJS特集】国民皆保険実施に課題も BPJS変更点や制度を解説

◇加入者目標は達成 BPJS医療保険
 今年1月からインドネシアで社会保障機関(BPJS)が発足し、5カ月が過ぎた。2億4千万の国民皆保険の達成を目指す、壮大な実験ともいえる試みだが、BPJSに登録したにも関わらず、カードの発行が遅れ、病院の負担が発生するなど、問題が噴出している。ジャカルタ特別州ではジャカルタ保健カードの導入など、自治体の独自の施策もあり、住民も混乱。民間保険会社への業績にも影響が出ている。
 これまでインドネシアの公的保険制度は退役軍人や公務員対象の医療保障制度アスケスや民間向けに医療、労災死亡保障などをまとめたジャムソステックのほか、地域独自の保障など数種類あった。加入も任意だったが、これを義務化し今年1月に新しくBPJSとして始まった。アスケスの名称をBPJSクセハタンに変更し、ジャムソステックの健康保険部門を統合。ジャムソステックの労災、老齢給付、死亡保障部門をBPJSクテナガクルジャアアンの名称に変更し、2015年7月の移行完了を目指している。
 今年1年間のBPJSの医療保険(JKN)加入者を1億2160万人としていたが、5月末までに1億2190万人に達した。ファフミ・イドリス代表は「市民の強い欲求の現れだ」と述べている一方、JKNに登録したが、カードが発行されていない患者が治療費を支払えず、病院側が負担する事態が発生している。
 BPJSへの変更で6カ月以上滞在する全ての外国人も加入が義務づけられる。15年6月30日までは掛け金は賃金の0・5%までで、それ以降は1%に、企業は4%を負担し、計5%が掛け金になる。一方で対象賃金は少なく、最大で472万5千ルピア。7月1日以降は国民負担は1カ月あたり最大で4万7250ルピアになる。通常の掛け金を支払えば、入院時にインドネシアで最も良いとされる1〜2人病棟の「クラス1」にキャッシュレスで入院が可能だ。また、がんや心臓病などの治療費も全てBPJSが負担する。直近ではマカッサルであったがん手術で1億2千万ルピアの手術費を全て補助した事例がある。
 自営業やインフォーマルセクター対象には3段階の掛け金を用意しており、任意で選択し、加入を義務づける。一方で西ジャワ州ボゴールや北スマトラ州メダンなど全国で、日雇い労働者などが、病院での手続きが煩雑で、診察を受けられないこともあるなどとして、BPJSの制度の簡素化を求めるデモを起こすなど、市民からは制度が十分でないとの指摘も出ている。

◇民間との兼ね合いは
 医療保障部門の問題はすでに多くの国民が加入している民間保険会社との兼ね合いだ。民間との整合性を図るために「COB」と呼ばれる制度が適用されている。
 COBは「コーディネーション・オブ・ベネフィット」の略称。入院を例にすれば、クラス1までの治療費などをBPJSが負担し、VIP病棟などの治療費を民間保険会社が補助するなどの仕組みで合意している。5月末までにBPJSとシナールマスやAXAなど民間保険会社7社がCOB契約を結んだ。シナールマスのドゥマシ取締役は「保険会社も負担金が減らすことができる」として合意。各社はある一定以上の治療を望む富裕層をターゲットにした商品作りが求められるようになる。

◇KJSは統合へ
 ジャカルタ特別州では独自に低所得者対策の健康保険カードKJSを配布してきた。今後はBPJSに自動的に統合される予定だ。カードの利用は可能だが、入院治療などには最も低い「クラス3」の利用しかできないために、市民の評判はそれほど良くはない。

◇年金の切り離しも検討 BPJS労働保障
 西ジャカルタ区では7月ごろから同区役所内で労災、年金などを取り扱うBPJS労働部門の登録手続きができるように「総合認可受付機関(PTSP)」の窓口を整備。州内では初の試みとなる。同区長のアナス・エフェンディ氏は「他地域でも同様の取り組みが今後も進むだろう」と期待を見せる。ジャカルタ州内では4万2616の企業と356万1607人が登録している。
 労働部門ではこれまでの3分野に加え、公務員に限られてきた年金制度を民間にも義務づけるとしているが、金融庁などは財政面で破産する可能性を指摘しており、独立機関として設立する可能性を示唆し、現在の給付開始年齢である55歳から58歳に引き上げることも検討している。
(高橋佳久)

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