移転先不足で暗礁 プルイットの立ち退き 州と貧困層が「正面衝突」

 ジャカルタで立ち退きをめぐる州と住民の紛争問題が頻発している。首都中心部の治水を担う北ジャカルタ・プルイット貯水池の改修をめぐっては、強制的な違法住居撤去に踏み切った州と貧困層の住民が激しくぶつかる。スハルト時代から続くこの問題は、民主化時代に合わせ形を変えながらも、貧困問題と密接に絡み合って、成長の負の側面を浮き彫りにしている。

 「どうして壊すのよ」。女性がむせび泣いた。州は先月22日、貯水池北西岸の15世帯が住む住居を撤去した。ショベルカーが家屋をあっさりがれきに変えていく。アスベストの白煙が舞う現場には、悲しみと諦めが混ざっていた。数百人の警官、警備隊員が見守り、遠巻きに見つめる国軍兵士の姿もある。
 町内会長によると、1978年ごろからこの地域に地方からの流入者が住み始めた。すでに30年以上暮らしており、「建設権を持っているも同然」と主張する。アディさん(30)は土地が州の保有であると知っている。だが、ムアラ・バル漁港での肉体労働の日当は5万〜7万ルピアで、行くあてもない。「妻と子どもを養わなくちゃいけない。いったいどうすればいいんだ」と語気を荒げた。
 貯水池改修のきっかけは1月の首都大洪水。隣接する排水設備が故障し大統領宮殿を含むジャカルタ中央部の排水機能がまひした。日本の無償資金協力の排水機場改修と組み合わせて、池の面積を広げ、浅くなった底をさらうことが緊急の課題だ。
 州は対応を急いでいる。一週間前に住民に告知し、7日までに北西岸700世帯を即撤去。雨期に入るまで半年しかないからだ。8カ月で貯水池から20メートル以内の州保有地から住民を立ち退かせる目標だ。
 しかし、移転先が不足している。州関係者によると立ち退き予定は3千世帯だが、新築したムアラ・バル州営賃貸住宅(ルスナワ)400室。このままでは少なくとも2600世帯が路頭に迷う。
 住民の立ち退き前は、公営住宅の家賃を通常月50万〜70万ルピアから補助金で20万ルピア以下に抑えて入居させると説明していた。だが、立ち退き期限から3週間経った後も移転先は宙づりのまま。住民の交渉を代行するNGO(非政府組織)を拒絶し、機動隊にテントを張って抗戦する住民を退去させるなど、州の姿勢が硬化した。

◇住民が猛抗議
 住民たちが怒りを爆発させた。13日、反対集会を開き、人権団体を集めた。昨年の知事選でジョコウィ知事の選対支部だった家屋を反対運動の詰め所にした。知事への強烈なあてつけだ。
 知事選では住民の大半がジョコウィを支持した。決選投票の前に、違法住居の合法化を定めた誓約書に、当時の知事候補だったジョコウィが署名したと住民は主張している。かつての選対はいまは知事を糾弾する看板を掲げる。サフロニ第19隣組長は「知事は補償として約束していた公営住宅を渡さないまま、対話なしに撤去を進めている。人間扱いしてほしい」と訴える。
 さらに住民はプレマン(チンピラ)から脅迫を受けていると抗議した。住民は「立ち退きに反対する住民の家をプレマンが徘徊した。威圧感を与えるいでたちで刃物などを携えて立ち退きを迫った。当局が雇っているに違いない」と主張。国家機関、国家人権委のシティ・ノオル委員は13日、現場視察の結果、プレマンが立ち退き脅迫をした形跡がみられると判断した。これを受け、州の改修事業責任者は14日、公営住宅の確保ができるまで撤去作業を一時凍結すると地元メディアに語ったが、いつ撤去作業が再開されるか分からない。
 プルイット付近は福建系華人が多く居住すると言われる。高級住宅街、高層アパートメント、大型街区。開発が急速に進みバブルの様相を見せる。一方、貯水池の住民の大半はムアラ・バル漁港で働く低所得者・貧困層。「最近、アパートメントがどんどん建つのに、われわれは1月に洪水に遭い、今度は立ち退きだ。やってられない」とルバイさん(38)は、やりきれない気持ちを露わにした。(吉田拓史、写真も)

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