【テーマ2014選挙】(5)自国産業の柱、育成を 経済

 好景気を享受しながら、短期ではルピア安、高インフレ、貿易赤字、中長期では未整備なインフラや分かりにくい法運用など問題が山積のインドネシア経済。今年の見通しを、インドネシア経営者協会(アピンド)会長を務める財界の重鎮、ソフヤン・ワナンディ氏(72)はこう話す。
 「一連の選挙キャンペーンに伴う政党や候補者の支出で広告業界など消費が高まる分野もあるが、全般的には大型投資を手控える傾向が強くなる」。次期大統領に誰がなるか見通しがつくまで、一時的ではあるが、投資家は慎重になるというのが理由だ。
 ジャカルタ周辺の工業団地はここ数年、土地不足だったが、来年以降を見据えた投資の動きも着々と進んでいる。1〜2年後に向け造成を進めている地元運営会社の幹部は「昨年までのブーム時ほどではないが、中長期の市場拡大を見据えた製造業の引き合いは依然強い。5年前、10年前の選挙では様子見に徹していて、そこまで先を見た動きはなかった」と底堅さを指摘する。

■ジョコウィ―カラ組の待望論も
 実業界にとって問題は、高コストの経済体質。最低賃金がここ数年で大幅に引き上げられ、金利も上昇している。インフラ不足による輸送コストの増加も深刻。米国経済など外的要素の影響もあるが、時間や費用がかかる税務や通関も含め、多くは長い間言われてきた問題だ。
 この現状の打破に期待がかかる正副大統領候補として、ソフヤン氏は「ジョコウィ・ジャカルタ特別州知事とユスフ・カラ元副大統領のペアを推す人が多い」と明かす。ともに実業界出身で、論旨は明快、実行力もある。「ジョコウィ氏はジャワ島で人気、(スラウェシ出身の)カラ氏はジャワ島外で人気が高い。国政の経験がないジョコウィ氏を、副大統領の経験があるカラ氏が補佐することもできる。ただ、2人とも『乗り物』(担ぎ上げる政党)がない」
 貧しい農村への所得再分配などを掲げるプラボウォ・グリンドラ党最高顧問などの候補もいるが、「大衆受けを狙い、外資を含めた民間企業を軽視するような政策を打ち出す候補はいないだろう。経済発展を続けるために、実業界の力は不可欠」と楽観視している。

■中長期の成長へ準備
 自動車産業の発展を目指す低価格グリーンカー(LCGC)プログラムも緒に就いたばかり。自動車の売り上げが伸びれば雇用の拡大につながる。日本を中心に自動車メーカーは拡張投資を続け、インドネシアを輸出拠点とする動きも見えつつある。一方で、これまで国産車計画が幾度か提唱されたが、次期政権が推進しようという姿勢をとるのかどうか。製造業で自立した国内メーカーを育てる方策も問われている。
 経済成長率は昨年、今年とも失業率引き下げの最低ラインとされる6%を下回る可能性が高く、10年の長期政権の末期は失速気味だ。ユドヨノ政権発足時に約10%だった失業率は、この10年で6%台に下がっている。国際的に有利な条件が重なったこともあり、5〜6%の成長率を維持した結果ともいえる。
 日本貿易振興機構(ジェトロ)ジャカルタ事務所の富吉賢一所長は、経済テクノクラートの力もあり、短期的には大きな変化はないと見る。一方、新政権が長期的な視野で外資の活用や、ジャカルタに集中している工場を分散させていくなどの施策を講じなければ、天然資源輸出への過度な依存で工業分野の国際競争力を失い、最終的に経済低迷を招く「オランダ病」が現実になると懸念する。
 新政権は成長を再び6%超の軌道に乗せる必要があるが、同時に中長期の安定的成長を見据えた準備を進めることが重要だ。(上野太郎)

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