スマトラ沖地震と津波がもたらした唯一の前向きな影響がアチェ和平交渉の進展だ。政府と独立派武装組織「自由アチェ運動」(GAM)は八月の和平合意へ向けて大詰めを迎えている。独立紛争は国際社会からの支援の大きな障害となっており、和平なくして順調な復興はあり得ない。紛争と災害の二重苦を背負った地元住民は早期和平を切望するが、実現を楽観視できないでいる。
「アチェは天然資源の豊かな土地。血を流さずに独立できるなら賛成だ」
東アチェ県内のある郡の郡長(三七)は、政府側の人間でありながらきっぱりと語った。
「あのときは一気に盛り上がった」。一九九九年末、アチェのシンボルとして知られるバイトゥルラフマン・モスクで「百万人集会」が開かれた。住民投票を求める学生の呼びかけに応えて、州内各地から集まった五十万人以上の住民が期待したのは独立だった。
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投降した元GAM構成員(ビルン県)
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しかし、当初は柔軟な対応を示していた政府側も態度を硬化させ始める。武力衝突は収まらず、メガワティ前政権は二〇〇三年五月に戒厳令を発動して、再び大規模な軍事作戦を展開。独立機運は一気に冷え込んだ。
独立紛争について聞くと、住民たちは「もううんざりしている。一体いつまで続けるのか」とため息をつく。約三十年間続く独立紛争の中で、住民は次第に国軍とGAMの板挟みになり、苦しむようになったと言う人もいた。
「国軍兵士にGAM構成員の潜伏場所を教えろと脅され、教えると今度はGAM側に暴行される」(西岸ムラボ出身の男性)
GAM弾圧の名目で住民が人権侵害の犠牲となったケースは数え切れないが、GAM側も身代金目的の誘拐などを繰り返しているという。
住民の間では和平交渉の行方にも懐疑的な見方が少なくない。ピディ県の郡長(五〇)は「もちろん期待しているが、楽観はしていない。これまで何度も停戦や和平交渉があったが、その度に裏切られてきた」と語る。
■難題は残されたまま
GAM側が、一月に再開された和平交渉で独立要求を一時棚上げし、自由選挙による「自治政府」の樹立を目指す方針を示したことで、和平実現に向けて大きく動き出した。
和平交渉を主導するユスフ・カラ副大統領は、五月末の第四回協議の結果を受けて、「すでに主な懸案の九割で合意に達した」と述べ、八月にも合意成立は可能との見方を示した。
非政府組織(NGO)「人権擁護財団」の代表を務めるシャークアラ大法学部講師のサイフディン・バンタシャン氏は「大津波に見舞われた今、何としても紛争を終わらせる必要がある。だが、最も重要で、最も難しい問題が残されている」と指摘する。
GAMの武装解除と政治参加という二つの難題は妥協点が見出せていない。
国軍は五月に非常事態宣言が解除された後も、部隊の撤退を拒否しており、今後も武力衝突が続く可能性が高い。「実効を伴わない和平では意味がない」とサイフディン氏。
GAMが政党化して政治闘争に転換するという選択肢も、「まず憲法を改正しなければならない。さらに、国内の他地域も追随して地方政党が増えかねず、国会の主要政党は認めないだろう」(地元紙記者)。
今月二十二日には国際赤十字社の香港出身の女性職員がアチェジャヤ県ラムノで銃撃され、重傷を負った。独立紛争はアチェ復興に暗い陰を落としたままで、和平実現への道のりは依然として険しいものとなっている。