「権限が強くなったと言っても、まだまだ飼い主にしっぽをつかまれた犬のようなものです」
トリトリ県の県庁からほど近い中心部の閑静な住宅地。県官房長のソンパさん(五八)は、地方分権が施行された後も、飼い主(中央政府)が犬(地方政府)を牛耳る構図は何も変わらないと切り出した。
県の最大の悩みは、政策を実現するための「開発」財源の確保。同県の年間予算(二〇〇三年)千六百七十四億ルピア(約二十億円)のうち、自己財源収入(地方税や地方利用者負担金)は約九十億ルピア(約一億円)。予算の実に九五%を日本の地方交付税に当たる中央政府からの「均衡資金」に頼っている。
■ベチャ税にテレビ税
県は、独自財源を増やすため、地方自治法の施行後に可能になった「新税」の導入にも積極的に着手。住民の主要な移動手段になっているベチャの経営者に対して課税する「ベチャ税」、丁字やカカオ、木材などを県外へ「輸出」する際に課税する「産物持ち出し税」などを導入した。
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ベチャが走るトリトリの市街地
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導入前は、県内の利害関係者を集めて何度も説明会を開き、「新税」に理解を求めた。「新税」は、施行後も状況によっては変更するなど、柔軟に対応しているという。
近年、経済回復とともに所得も上がり、県内ではケーブルテレビの敷設がブーム。ソンパさんは「テレビ税の導入も検討している。常に新しい動きに敏感になって、どこから税金を取れるか見極めることが必要」と話す。
■地方政令の取り消しも
中央政府は、こうした「新税」の導入で歳入を最大限増やすよう地方自治体を指導する一方、政令乱発による地方経済の停滞や投資環境の悪化を懸念する。
地方自治実施監視委員会は昨年、地方自治体が発令した四百五十の政令のうち、約四割が企業活動を阻害する恐れがあると警告。中央政府が地方政令を取り消したケースもあった。
しかし地方政府は「地方の実態を熟知している地方政府と議会が十分に話し合って作られたもの。中央政府が心配するのは筋違い」(ソンパ官房長)と真っ向から反発する。
■政官汚職がまん延
いま地方では、歳入の最大化に熱心になるあまり、その分配がおろそかになっているという指摘が出ている。税金は増えたが、公共サービスは良くなっていないというわけだ。
地方自治体や議会を舞台にした政官の汚職が全国各地ではびこり、非政府組織(NGO)の推計では二百以上の地方自治体・議会が汚職容疑で取り調べを受けたといわれる。県知事や高官が急に高級車を乗り回すようになったり、議会対策費に議員への手当が急増したという話も耳にする。
国際協力機構(JICA)の中嶋浩介さんは「歳入最大化も重要だが、それをどこにどう使うか。住民サービスの向上を意識した税金の優先順位の付け方や分析能力の向上が急務」と話す。