毎年、ラマダン(断食月)になると、歓楽街を襲撃する急進派組織・イスラム擁護戦線(FPI)が、ジャカルタで活動を活発化している。週末の二十二日夜、外国人客が多い南ジャカルタのクマン地区のバーを襲い、店内をめちゃくちゃに破壊した。同地区を警備するプレマン(チンピラ)や警官が、白装束に身を包んだFPIメンバーに立ちはだかり、一時にらみ合ったが、予定していたブロックM襲撃は中止し、「われわれは巡回活動を続ける」と言い残して姿を消した。
二十二日午後十一時半ごろ、ピックアップ・トラックやオートバイに分乗したFPIのメンバー約三百人が、外国人居住地に近いクマン地区に現れた。
「この店だ!」−クマン・ラヤ通りの南端に差しかかったFPIメンバーが叫ぶ。ゴルフクラブや鉄棒を持った白装束の若者たちが、トラックから一斉に飛び降り、いつもは外国人客で賑わうバー「スター・デリ」を襲った。
攻撃隊長が「お前たちが店を開いているのは分かっている。出てこないなら全部ぶち壊すぞ」と叫んだ。だが、店内は静まり返ったままで返事がない。
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壁掛けを引きはがし、床にたたきつけるメンバー
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メンバーたちは「アッラー・アクバル」と叫んで気勢を上げ、シャッターとドアをこじ開け、店内になだれ込んだ。カウンターを登り、ウィスキーのボトルや鏡を床にたたきつける。割れたボトルからウィスキーが溢れ、ガラスの破片が床一面に飛び散った。
■私服警官が威かく射撃
メンバーたちはマクドナルド前の交差点方向へ。これを阻止しようと、飲食店の警備に当たる地元のプレマンたちがベンチでバリケードを築き、FPIに襲いかかった。
その瞬間、「パーン、パーン」と銃声が鳴り響いた。待機していた車から私服警官が飛び出し、ピストルを空中に向けて威かく射撃。「アッラー・アクバル」の叫びと銃声が交互に響きわたる。ひるんだFPIメンバーは、いったん後退したが、今度はトラックやオートバイに乗って反撃、脇道に逃げ込んだプレマンや私服警官を追いかけた。
FPIがマクドナルド前交差点まで来たところで、国家麻薬委員会(BNN)の捜査官が現れ、「麻薬と飲酒の取り締まりは警察がやっている。違法営業には厳重措置を取る」と説得。FPIは、当初襲撃を予定していたブロックMには立ち寄らずに退散した。
■「警察と経営者がグル」
風俗営業地区の巡回作戦を指揮するFPI本部のイルワン・アルシディ氏(三四)は「警察は裏金を徴収し、ラマダン中のアルコール飲料の販売禁止を定めた条例に違反する店を保護している。われわれが監視しなければ、有名無実の条例となってしまう」と話す。
裏金で違法行為を見逃す警察と経営者に対する怒りが、血気盛んな若者らを襲撃にかき立てる。イルワン氏は「片っ端から襲撃しているわけではない。店だけでなく、隣組、町役場、警察などにも警告書を送り、それでも営業を続けている場合、最後の手段として店に標的を絞って破壊している」とFPIの活動を正当化した。
FPIはこの日、クマン地区に先立って、テベットやパサール・ミングの商店街を巡回した。「指令に従え」と指導者が叫んでも、興奮したメンバーは道端でトランプを楽しんでいた住民に襲いかかった。カードを取り上げ、いすをけり飛ばしたり、屋台で売られているアルコール飲料のビンを引きずり出し、たたき割った。
■暴力はイスラムに反する
二〇〇二年、別のイスラム急進派組織に襲撃されたことがあるクマンのカフェ「パシール・プティ」のマネジャー、アチュ・ディラガ氏は「警察は襲撃を放置している」と述べ、暴力集団と警察の癒着がこうした暴力行為を助長していると指摘。「私もイスラム教徒だ。ラマダン中、バンドの生演奏や酒類の販売をやめているが、急進派の襲撃自体がイスラムに反する行為だ」と非難した。
■発足に軍・警察が関与
FPIはスハルト政権崩壊後の一九九八年十月、特別国民協議会を目前に控え、学生デモを阻止するために旗揚げされた。創立には、ヌグロホ・ジャユスマン警視総監(当時)やウィラント国軍司令官(同)も関与したと言われている。イスラム法導入を標榜し、賭博や売春の巣窟として、ディスコやバーなど娯楽施設を襲撃、近年の反米デモも活発に行ってきた。
■扇動罪で引き締める
しかし、バリ島爆弾テロ事件以降、ハビブ・リジックFPI代表を逮捕、扇動罪で禁固刑が下されるなど、メガワティ政権は急進派組織の取り締まりに乗り出した。
ユドヨノ新政権のウィドド政治・法務・治安担当調整相も二十四日、FPIのクマン地区襲撃について治安担当閣議で協議。しかし、イスラム勢力に対する政治的な思惑や、歓楽街の監視を理由に不正徴収を繰り返す警官の規律の乱れなど、さまざまな問題が指摘されており、ユドヨノ大統領の実行力が問われそうだ。