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2001年3月14日のトップニュース

「象徴大統領か弾劾か」

本名純氏に聞く

与野党入り乱れて調整中

大統領の抵抗いつまで?

 アブドゥルラフマン大統領派は本拠地の東部ジャワで青年組織を動かし、反大統領派は、学生や農民を首都に動員して大統領官邸を包囲した。地方の騒乱やテロでさえ、権力闘争の道具に使われているふしがある。騒乱合戦の果てに、ルピアが通貨危機最中の相場に逆戻り。最大の宗教組織をバックに、合法性にしがみつく頑固な大統領の抵抗で、政局の手詰まりはいよいよ顕著となった。この手詰まりをどう打開するのか。泥沼にはまった政治危機の行方について本名純・立命館大学専任講師(インドネシア政治)に聞いた。
 インドネシアの政界は、いま二つのシナリオをめぐって調整している最中だ。調整の当事者は大統領与党の民族覚醒党、メガワティ副大統領の闘争民主党、アミン・ライス国民協議会議長の国民信託党、アクバル・タンジュン国会議長のゴルカル党、それにイスラム系の少数政党。

 ■2つのシナリオ
 シナリオ1は五月一日に第二の警告書が出る前に決着させるというもの。
 シナリオ2は八月まで持ち込み、特別国民協議会を開き大統領を弾劾するというものだ。

 ■象徴大統領に祭る
 シナリオ1は「ゴールデン・ケージ(金のかご)シナリオ」と呼ばれる。グス・ドゥル(アブドゥルラフマン大統領の愛称)を象徴大統領にし、あらゆる政府の意志決定はメガワティが握る。第二の警告書が出される前に、グス・ドゥルに「自分でパラシュートで降りなさい。落下先は教えてあげるから」と説得。八月の国民協議会の決議で、役割分担を決めてしまう。
 これはメガワティの好む選択肢だ。メガの夫のタウフィク・キマスとメガが交互にイスラム勢力と会合し、「あなたなしで行く」とグス・ドゥルに見せつけている。
 闘争民主党内では、タウフィクはナフダトゥール・ウラマとのビジネスもあり、グス・ドゥルと仲が良かった。だが、グス・ドゥルという船に乗って、一緒に沈んでいくのはまずい。

 ■いまならチャンス
 交渉するなら、イスラム勢力の方から闘争民主党に接近し、バーゲニング・パワーが強い今だ。タイミングを外すと「闘争民主党を外してやってしまおう」となりかねない。弾劾の票決で負けたら、前回の大統領選に続いて再び波に乗り損ねる。
 票決で負けた場合でも、メガは大統領に昇格するが、この政権はすぐにつぶされるだろう。

 ■もう終わりグスドゥル
 「タウフィクの汚職問題は追及しない。その代わり、内閣にはイスラム勢力も入れる。単独政権にはしない」という同意がすでに出来ていると聞いている。
 メガは最後まで態度に現さないだろうが、政党間ですでに決まっている場合、メガも勝手なことはできない。
 このシナリオ1の場合、第二の警告書は出ない。第一の警告書はイエローカードだったが、第二の警告書はイエローカードではなくもう終わり。それをグス・ドゥルに分からせようとしている。

 ■アミン好みのシナリオ
 シナリオ2は、第二の警告書を出し、もっと明確に弾劾してしまおうというものだ。グス・ドゥルの汚職を追及して勝ったという事実は、次の選挙でも使えるし、パフォーマンス好きのアミンはこちらの方を気に入っているようだ。
 二○○四年の選挙を控え、政党は金が必要だ。選挙資金調達のため、なるだけ早い時期にオール・ザ・プレジデンツ・メンの今の内閣をつぶし、閣僚ポストを確保する必要がある。

 ■デモ合戦を恐れる軍
 軍はいくつかのコンティンジェンシー・プラン(不測事態対応計画)を作っている。軍が好むシナリオは、五月で抑えてしまう「ゴールデン・ケージ」。これが最もリスクが低い。次に、グス・ドゥルが自ら辞任する。最悪なのは特別国民協議会での弾劾が始まり、大衆が動員されることだ。
 第二の警告書が出ると、末端の組織が動く。下はむちゃくちゃ、地方はバラバラ、上は混乱。こうなったら軍は動く。文民が管理できなかったら軍が出る。
 軍はこれをクーデターとは思っていない。こうしたことを平気で言えるムードが軍内に広がりつつある。
 その時の大統領に非常事態宣言を出させ、武力をもって抑えるということになるだろう。「そうなった時に文句を言うなよ」と、伏線を張っている。

 ■独自の意志を持つ軍
 軍は軍独自の意志を持とうとしている。軍を仕切っている陸軍のエンドリアルトノ参謀長、リャミザード・リャチュドゥ戦略予備軍司令官、キキ・シャフナクリ副参謀長、アミール・スンビリン教育訓練学校校長らは全員、強面。東ティモールを経験している野戦タイプの将校だ。効率、コンパクト、団結をモットーに、軍の内部統一を図っている。
 派閥の異なる五十五人を集めて開いた将校会議は、座る場所も決めなかった。エンドリアルトノは「言いたいことがあったら自分の目の前で言え」と、ざっくばらんに話させた。エンドリアルトノはストレートで分かりやすい人物だが、グス・ドゥルにとっては使いにくい。
 治安に関しては、意外に軍はまとまる。エンドリアルトノやユドヨノ調整相は「治安と国防は分離できない」と改めて主張している。これらの発言は、非常事態宣言が出た場合、軍が出ることを想定している。

 ■頑固むき出し大統領
 グス・ドゥルの選択肢は狭まっている。もう懐柔はできない。第一の警告書が出る前の、やり方が悪すぎた。転換期のインドネシア政治は権力ゲームにのめり込んでいる。
 グス・ドゥルはすべてに手を出し、「大統領が好きなことをやる」という発想で突っぱね、国会凍結まで計画した。グス・ドゥルが今のままのやり方で続投できる可能性はゼロに近い。
 心配なのはグス・ドゥルが頑固になっていること。「私が辞めたら五つの地域が独立を宣言する」と脅迫したり、治安悪化を利用している雰囲気がある。
 サンピット抗争の時は、五日間放置した。クリスマス・イブの連続爆弾テロも、事前に国軍から情報を伝えられていたが、動かなかった。

 ■陸軍参謀長更迭の噂も
 エンドリアルトノ陸軍参謀長解任のうわさも流れている。今、グス・ドゥルが戒厳令を出しても軍は動かないからだ。
 グス・ドゥルが弾劾されたら、今度はメガワティに対して徹底的にやるだろう。メガが大統領になった時、脅威となるのはイスラム中軸勢力ではなく、ナフダトゥール・ウラマだ。

 ■メガワティの将来
 メガワティは挙国一致内閣をつくると手足を縛られ、好き勝手なことはできない。グス・ドゥルはすべてに手を出し、それが原因で国家全体のシステムがめちゃくちゃになった。介入できないことは、リーダーシップを発揮できないという欠点はあるが、現状と比べると事態正常化につながるかもしれない。
 二○○四年の任期全うまでアミンを中心とする中軸勢力がメガワティを支持するとの保証は、あるようでいて、ない。一年間はメガの顔を立てて支持するが、二○○二年ごろから、じわじわと「約束を破った」と脅迫を始めるだろう。(談)

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