大統領の支持勢力「国家経済に混乱狙う」
インドネシア味の素事件は、日本人も含む同社最高幹部が消費者保護法違反で逮捕されたことで、刑事事件に発展した。「ハラム」(摂取不可)の食品を「ハラル」(摂取可能)と表示して販売し、消費者をだましたとの疑いが捜査の焦点となり、日系企業の商品がインドネシアの多数の消費者に打撃を与えたという前代未聞の刑事責任が追及されることになる。
しかし、イスラム指導者会議(MUI)が、味の素を「ハラム」と断定した背景には、いくつかのナゾが指摘されている。アブドゥルラフマン大統領に代表されるイスラムの世俗化に寛大な勢力と、そうでない勢力の対立。スハルト政権をはじめ歴代政権にその権威を低く見られていたイスラム指導者会議の権威回復の動きなどが、微妙にからんでいるのではないかという見方だ。
イスラム法に反するかどうかの議論は、美人コンテスト、カエルの肉、輸入ミルク、試験管ベービー、臓器移植、女性大統領問題など、これまでも国民生活に密着した問題で、真剣に論じられてきたが、今回のように、経済への影響が大きい巨大食品産業の製品が対象になったのは初めてだ。インドネシア当局との対応に味の素社の不手際があったにせよ、この事件の背後には、世俗的な文化に急速な対応を迫られるイスラム勢力の中に、イスラムの原点に引き戻そうとする動きが関係していることは否定できないようだ。
大統領を支えるイスラム最大の組織のナフダトゥール・ウラマ(NU)の最高幹部が、そうした疑問を指摘している。七日までにインドネシアのメディアに登場したいくつかの意見をまとめてみた。
■ハシム・ムザディ・ナフダトゥール・ウラマ(NU)議長(4日、スラバヤで)
味の素がハラルか、ハラムかの判断を下すには、科学的な調査を再度行うなど十分に注意を払う必要がある。「ハラムではない」可能性も捨てきれない。なぜなら、国の経済を混乱させるために、(だれかが)故意に問題を暴き出した可能性もあるからだ。軽率な対処は今後の国家経済の妨げになる。
■ウマル・アンゴロ・ジェニー生物工学博士、イスラム知識人教会(ICMI)幹部(5日、ジョクジャカルタで)
イスラムにとってのハラムとは、血、死体、豚肉、「アッラーへの祈り」を捧げずに、落とされた動物の肉。バクトソイトーン(発酵を助けるバクテリア)の成長を助ける酵素として豚肉の脂が使用されただけで、味の素の製品そのものとは分離している。従って、味の素はハラルだと言い切ることができる。家畜の排泄物を肥やしに使ったマンゴーを食べるのと同じこと。イスラム指導者会議(MUI)の薬品食品調査局が行った調査は、「味の素に豚の要素は含まれない」と結論づけたにもかかわらず、MUI自身がなぜハラムと断定したのか不思議だ。
この問題が暴き出された背景に政治的目的があるのではないか。インドネシアは宗教を持ち出し国内産業保護を行ったとの国際的告発を受けかねない。
■4日付レプブリカ紙社説
二十年前、粉ミルク会社も製品がハラムとの追及を受けたことがあった。しかし、製造者に対する厳格な処置は取られなかった。スハルト大統領(当時)が強権的に経済的利益を優先させ、製造者を保護することが可能だった。
二十年後の今、再発した味の素事件は(1)味の素はハラルの重要性を軽視してきた(2)消費者の立場が依然、非常に弱い。一九九九年に施行された消費者保護法がありながら、六カ月もハラムの商品が販売されていた−の二点を示している。
豚の脂使用は、故意ではないだろうが、これほど繊細な問題に対する味の素の不注意さが理解しがたい。また、政府と製造者が消費者の保護を実行しているとは信じられない。国民は、製造業者にもっと批判的でなければだめだという教訓となっている。
■西ジャカルタ・グロゴル市場の雑貨商キキさん(イスラム教徒女性)(7日)
味の素社の人が取りに来ないから、まだ売っている。テレビなどで情報が行き届いたのか、イスラム教徒は別のメーカーのものを買っていくが、(イスラム教徒ではない)華人系の人らはまだ味の素を買っていく。
■高校教師イドさん(イスラム教徒)(7日)
イスラム教の一つの解釈として、ハラムと知らずに食べた場合と、ほかに食べるものがなく食べなければ死んでしまう場合は、罪とならないという解釈がある。もちろん、罪の気持ちは生じるけれど。企業は今後、同じ失敗を起こさなければいい。
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