帰国者続出のEPA派遣 「日本で看護師になる」 東京都・首都大 バンドンの学生支援

 2008年に開始した日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づく看護師・介護福祉士受け入れ事業で、東京都と首都大学東京が先月末から、西ジャワ州バンドンのインドネシア教育大(UPI)看護学科の学生に対してテレビ電話を通じた日本語学習支援を始めた。日イの協力関係を一層促進させる試みとして期待されている受け入れ事業だが、難解な日本語が並ぶ国家試験の合格率は低く、それに伴って帰国者が続出している。同大での学習支援は、日本行きを前に日本語能力の向上を促すことで、国家試験の合格率上昇とインドネシア人看護師・介護福祉士の定着を目指す取り組みの一つだ。(西ジャワ州バンドンで関口潤、写真も)

 「何時に起きますか」「6時に起きます」―小さな教室に大きな声が響く。「次はエルニさんお願いします」と画面上から呼び掛けるのは講師の神山初美さん。9月に事前講習で訪れており、学生の顔と名前を覚えている。学生が正解を言えば「おー」と室内と画面の両方から歓声。1時間半の授業中は笑い声が絶えず、日本とインドネシアの距離を感じさせない双方向な授業となっている。
 講義は週に1回で、1年生から3年生までの全学生約60人が受講。首都大学東京の日本語教育や看護学科の教員たちが、1年目は基礎日本語、2年目は看護・介護分野の専門的な日本語、3年目は国家試験対策を教える。授業の様子を録画しており、将来的にはEPAでの日本行きを目指すインドネシア全国の学生が視聴できる仕組みの構築を目指している。

■日本好きの受け皿に
 2010年に開設したばかりのインドネシア教育大看護学科。同大は日本の教育機関と幅広く提携関係を結んでいることもあり、看護学科も開講時からEPAでの日本行きを念頭に日本語教育に注力している。週に4コマの日本語講義があり、1期生に当たる3年生は日本語学科の学生顔負けの日本語を話す。
 3年生のリラ・セプタニアさんは「日本の技術に興味があった。それに看護師はいい仕事だと思っていた」と語る。学生たちは「ドラえもん、ナルト、ワンピース」と次々に日本のアニメの名前を挙げるなど、日本に対する憧れが強い。日本で看護師として働くことが学生たちの夢だ。
 「通常、日本で働くことは日本の法律や制度上、難しい」と話すのはコーディネーターのディアニ・リスダさん。EPA制度では国家試験に合格すれば、正規の資格で働き続けることができる。難解な国家試験は「大きな壁」(ディアニさん)だが、EPAの制度は、日本に関心を持つ若者の受け皿になる可能性を持っている。

■アジアの人材を育成
 東京都と首都大学東京は今年から、来日しているインドネシア人とフィリピン人の看護師・介護福祉士候補者や、候補者になることを目指す学生の学習支援に乗り出した。東京で開講している看護師・介護福祉士候補者向けの日本語講座や国家試験対策講座は、首都圏在住の約20―30人が受講している。
 東京都はアジアの主要都市との連携強化を目指す施策の一つとして「アジアの将来を担う人材の育成」を掲げており、学習支援はその一環。東京都知事本局政策部政策担当課の三宅雅崇課長は「意欲を持って日本へ来たアジアの若者たちの希望がかなうよう支援をしていきたい」と語る。

■帰国者支援も充実へ
 EPA制度で日本へ行ったインドネシア人看護師・介護福祉士候補者は791人。国家試験の合格率は年々上がっているものの、今年も看護師が約13%、介護士が約37%にとどまった。不合格者を中心にすでに帰国したか、近く帰国する人はこれまでに約200人に上る。
 日本政府は問題に振り仮名を付けるなどの対策を取っている。帰国者に対しては、在インドネシア日本大使館を通じ、試験や日本入国の手続きの支援、模擬試験の実施など、国家試験への再チャレンジを促進。帰国者の再就職も後押しする方針で、今月末には大使館で日系を中心とした企業との面談の機会を設けるジョブフェアを開催する。

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