「ボニタ」を捕獲せよ リアウ州 住民襲ったスマトラトラ
リアウ州インドラギリ・ヒリル県プランギラン郡で住民2人を襲い殺した野生のスマトラトラの捕獲作戦が続けられている。トラは「ボニタ」と命名され、森林破壊や泥炭火災によりすみかを奪われた被害者でもあるとして、森林生態系保護を見直す声も上がっている。
ボニタは同郡タンジュン・シンパン村で1月3日、アブラヤシ農園で働いていた地元の女性ジュマティさん(33)を襲い殺し、続いて3月10日には住民男性のユスリ・エフェンディさん(34)を襲い死なせた。どちらも首元をかまれていたという。
リアウ州の自然資源保全センター(BKSDA)や国軍、世界自然保護基金(WWF)などが捕獲チームを編成。約50人が3グループに分かれ昼夜を通して捜索を続け、ヤギなどのエサが入った箱型の捕獲用わなを10カ所以上仕掛けたほか、麻酔銃での捕獲も試みている。
BKSDAによると、ボニタは村周辺をうろつき、住民や捕獲チームの前にも度々姿を現していたが、21日以降は森林の内部へ移動しているという。住民には1人で出歩いたり、子どもを外で遊ばせたりしないよう呼びかけている。また同村の小学校にボニタが現れたことがあり、危険なため約2カ月間の休校が続いている。
同郡のアブラヤシ農園は、マレーシアのタブンガン・ハジ・インド・プランテーション(THIP)が所有している。地元住民ら約500人は12日、同社の事務所に押しかけ同社とBKSDAに対し、ボニタの早期捕獲を訴えるデモを実施した。
■「トラも被害者」
シティ・ヌルバヤ環境林業相は20日、ボニタについて「トラの生息地が脅かされていなければ、人を襲うこともない。食料が減れば人との衝突も起きる」と話し、再度、森林保護について見直すため農業省と話し合いの場を設けるとした。
スマトラ島ではアブラヤシやゴム農園の開発が進むほか、森林・泥炭火災で森林地帯が減少し、すみかを奪われた絶滅危惧種のスマトラトラやスマトラゾウと人の間で衝突が多発している。WWFによると、野生のスマトラトラは現在、同島に推定約500頭がいるとされている。
WWFインドネシア支部も「すみかを奪われたトラが人間を襲う。トラも被害者だ」と指摘。スマトラ島で最も森林破壊が進んでいる場所はリアウ州で、1982〜2007年の26年間で、400万ヘクタールが失われ、森林被覆度は78%から27%に減少した。
インドラギリ・ヒリル県でもTHIPやシナールマスグループの子会社アララ・アバディ社が、産業用林(HTI)のためアブラヤシや紙パルプの原料となるアカシアを植林するなど、開墾を進めてきた。
同州内にある野生のスマトラトラの主な生息地は、ブキット・ティガプル国立公園やテッソ・ニロ国立公園、リンバン・バリン野生動物保護区などだが、その他の森林などでもスマトラトラの生息が確認さている。(毛利春香)