メトロミニを解体 廃車バス、部品は売却
さびついた公共バス「メトロミニ」がずらりと並ぶ。東ジャカルタ区プログバンにある車両整備場。オレンジと青のツートンカラーが目印で、約40年間にわたり、庶民の足として活躍した車両が次々と現役を退いている。ジャカルタ特別州政府の方針で代わりに新車両の導入が進む。老朽化した車両は解体され、部品が地方に売りに出されていた。
「年内で店じまいするつもり」。車両整備場でメトロミニの解体作業を行っている個人経営者スングル・シトゥメアンさん(63)は、車両とともに引退する考えだ。
メトロミニが運行を開始したのは1978年。スングルさんは北スマトラ州トバ湖周辺から上京し、80年からメトロミニの運転手として働いた。地方出身者が職を求め、ジャカルタに押し寄せた時期。メトロミニは、首都の大通りをさっそうと走る新しい公共交通機関として脚光を浴びた。
スングルさんは82年、メトロミニの車両を購入し、実業家に転身。以来、38年間にわたり、東ジャカルタ区プログバン周辺で計25台を運行してきた。「今はバスが人を探しているけれど、当時は人がバスを探していた」と振り返る。
1台1日30万ルピアを稼ぎ、25台分で日収は計約600万ルピアに上った。1女2男の子どもはいずれも米国へ留学。自宅も2軒構え、33部屋あるコス(下宿)を持つ。老後は悠々自適の生活だ。
メトロミニは役目を終えた。州営トランスポルタシ・ジャカルタは昨年8月、メトロミニの代替車両として中型バス「ミニトランス」の導入を発表した。同社広報によれば、現在30台のミニトランスが州営集合住宅と近くのバス停を結んでいる。ことし5月までに100台まで増やす目標という。
ジャカルタ特別州政府は2019年、車齢10年以上のメトロミニの運行許可を全面的に取り消す。ミニトランスへの買い換えを支援するため、国営銀行にミニトランス300台分の専用融資枠が設けられたが、スングルさんや知り合いの個人経営者で利用する人はいない。長年メトロミニを運行してきた経営者仲間も高齢になった。所有する車両も年代物。州政府に運行許可の更新を申請したが、もう許可されなくなった。
さびついた車両も「少しずつ解体して、部品を売れば結構な額になる」。昨年末に作業を始め、5日間で2台を解体した。東ジャワ州マドゥラ島の顧客が1100万ルピアで購入することが決まったからだという。「年内に残り23台を解体するつもり」。自ら整備を手がけてきた車両を、少しずつ売りさばいてメトロミニ事業の幕引きとする予定だ。(中島昭浩)