【貿易風】ジョコウィの老練な人事 

 国会第2の勢力を持つゴルカル党党首で国会議長だったスティア・ノファント(以下SN)が喜劇のような逃走のうえ、11月末に汚職容疑で逮捕された。
 SNにはこれまでいくつもの汚職の容疑があった。ではなぜ今になって逮捕されたのだろうか。
 ゴルカル党は大統領にとって連立政権の最重要なパートナーである。ジョコウィは闘争民主党から2014年大統領選に出馬したが、両者の間には常に緊張感がある。同党は大統領の手綱を取ろうと腐心し、大統領の右腕であるルフット・パンジャイタン海事調整相の解任をたびたび要求してきた。
 ジョコウィにとっては、ゴルカル党を味方につけることで、闘争民主党からの自律性を確保できる。ゴルカル党からの支持があれば、19年大統領選の立候補要件を満たすからである。
 大統領にとってゴルカル党をまとめてくれるSNには利用価値があった。
 しかし次期大統領選に色気をみせるガトット・ヌルマンティヨ前国軍司令官は、SNにゴルカル党からの推薦を持ちかけていたという。ジョコウィの副大統領候補狙いが本線だが、大統領候補の可能性も模索していた。
 大統領は動いた。来年4月に定年だったガトットを、突然国軍司令官の座から降ろした。新司令官はジョコウィがソロ市長時代から懇意にしているハディ・チャフヤント空軍参謀長であった。しかも任命から、国会承認、就任までたった5日間という異例のスピードだった。
 また逮捕されたSNに代わって、ゴルカル党首の後任には、アイルランガ・ハルタルト工業相を就けた。
 なぜ今かといえば、来年6月の統一地方選が本格化する前のタイミングだったからである。国軍司令官とゴルカル党首をコントロールしやすい人物にすることで、政権はひとまず安泰といえよう。
 ただ、新しい国軍司令官とゴルカル党首がそれぞれの組織を掌握できるかは、また別の問題である。ガトットは簡単に諦めないだろうし、統一地方選での難しい舵取りが待っている。(見市建=早稲田大学大学院アジア太平洋研究科准教授)

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