「インド洋津波」登録 ユネスコ記憶遺産 ボロブドゥール・ジャワ文学も
歴史的価値の高い文書などを対象にした国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」(世界記憶遺産)に、2004年12月にアチェ州などを襲った「インド洋津波」の記録資料が登録された。世界遺産ボロブドゥール寺院の保存活動に関する記録とジャワ発祥の文学作品「パンジ物語」も登録され、インドネシアの記憶遺産は8件になった。
10月下旬にパリで開かれた国際諮問委員会(IAC)で登録を審査し、ユネスコ事務局長が決定した。インドネシア国内の事務局を務めるインドネシア科学院(LIPI)が11日に発表した。
インドネシアからの記憶遺産は、オランダ東インド会社(VOC)の記録資料やブギス(スラウェシ)の叙事詩「ラ・ガリゴ」など5件が登録済みで、今回新たに3件が追加された。
ユネスコによると、04年12月26日にスマトラ島沖で発生したインド洋津波は高さ30メートルに達し、インドネシアやスリランカ、バングラデシュ、インドなど19カ国で犠牲者は31万人以上に上った。
「津波の記録と教訓を世界の記憶として残そう」と、インドネシアの国家公文書館とスリランカの国家公文書局が共同で申請。写真500枚、カセットテープ196本、CD・DVD1230枚など、当時の様子を示す貴重な資料の数々が登録された。
■遺跡の修復記録も
中部ジャワ州マグラン県の世界遺産、ボロブドゥール寺院遺跡群は、「遺跡の保存に現代技術が活用された初めてのケース」として、修復に関する写真約7万枚や完成図約6千枚、ネガフィルム約6万5千枚などが記憶遺産に登録された。
1960年代に始まった遺跡保存キャンペーンや、73〜83年に行われた大がかりな遺跡修復作業の記録が対象となった。
また、インドネシア国立図書館がカンボジア、オランダ、マレーシア、英国と共同で申請した、東ジャワの英雄パンジ王子を描いた文学作品「パンジ物語」の関連書物も登録された。
ラーマヤナやマハーバーラタなどインド発祥の叙事詩が流行するなか、ジャワ発祥の作品として台頭したパンジ物語は14〜15世紀のマジャパヒト王国時代に流行、船員を通じてバリやマレー、タイなど東南アジア各地にも広まった。インドネシアの国立図書館やオランダのライデン大学などが所蔵する書物計300点以上を申請し、登録された。
記憶遺産をめぐっては、15年に中国の「南京大虐殺の記録」が登録されたことに日本が反発。ユネスコは次回19年の審査から、多国間で意見や認識が異なる案件は、関係国から意見を聞き取るなど審査を見直すことを決めた。ことしは、日中韓などの民間団体が旧日本軍の慰安婦関連資料を申請したが、ユネスコは登録を保留した。(木村綾)
世界の記憶(世界記憶遺産)
歴史的に価値の高い資料や古文書を保存し、後世に伝える目的でユネスコが1992年に開始。世界遺産や無形文化遺産と違い、個人や団体でも申請できる。申請は1カ国2件までだが、それ以外に複数国の共同申請も可能。「アンネの日記」など世界で約350件が登録されている。日本では平安時代の「御堂関白記」、シベリア抑留の記録「舞鶴への生還」など7件が登録済み。