【貿易風】民族と宗教のカード

 インドネシアは「多民族多宗教」の国と称される。ここでの民族は、ジャワ人、スンダ人のようなエスニシティ(インドネシア語のスク)を指す。
 同じ多民族多宗教国家でも、隣国マレーシアとはその位置づけは大きく異なる。マレーシアでは多数派のマレー人はムスリムであるという前提がある。与野党ともに、マレー、華人、インド系の民族別政党で構成されている。したがって、しばしば与野党のマレー人政党間で「どちらが宗教的に正統か」が争われる。この結果、宗教に伴う政策がより保守的になる。
 インドネシアにおいては、民族と宗教は必ずしも一致しない。宗教政党はあるが、全国的な民族政党はない。最大のジャワ人でも国民の4割程度であり、民族を旗印にしても勝てないからである。
 ただし、しばしば二者択一になる大統領選や地方首長選では、宗教だけではなく民族的帰属が強調される。
 2014年の大統領選では、ジャワ人のジョコウィがマカッサル人のユスフ・カラをペアに選んだことで、スラウェシ島で圧勝した。
 世俗的な印象が強いジョコウィに対しては、「宗教カード」も切られた。反イスラム的であるという印象を持たせるための誹謗(ひぼう)中傷が行われた。
 ジャカルタ特別州知事選では、07、12年と地元ブタウィ人意識が強調されたが、この戦略はいずれも失敗した。17年選挙ではブタウィ人は副知事候補一人だけだった。しかし「民族カード」はやはり使われた。現職のアホックが少数派の華人キリスト教徒であったため、民族と宗教の要素が組み合わされて攻撃対象となった。
 インドネシアに特徴的なのは、民族や宗教に基づく排他的な主張に対して、「融和カード」が切られることである。対立候補の排他性を攻撃し、民族や宗教間の融和による国民の統合を強調するわけである。
 アホックの「融和カード」は不発だった。彼の「宗教冒涜(ぼうとく)」発言こそが融和を乱したとの批判が効果的だった。
 18年には各地で重要な州知事選が行われる。とくに非ムスリムが多い北スマトラ州や宗教と民族意識が結びつきやすい西ジャワ州では、民族と宗教、そして融和カードが多用される。そして、こうした「カードの使い方」は、19年大統領選において参照されることになるだろう。(見市建=早稲田大学大学院アジア太平洋研究科准教授)

社会 の最新記事

関連記事

本日の紙面

JJC

人気連載

天皇皇后両陛下インドネシアご訪問NEW

ぶらり  インドネシアNEW

有料版PDFNEW

「探訪」

トップ インタビュー

モナスにそよぐ風

今日は心の日曜日

インドネシア人記者の目

HALO-HALOフィリピン

別刷り特集

忘れ得ぬ人々

スナン・スナン

お知らせ

JJC理事会

修郎先生の事件簿

これで納得税務相談

不思議インドネシア

おすすめ観光情報

為替経済Weekly