【貿易風】共産党の亡霊と空中戦
9月17日から18日にかけ、ジャカルタの法律擁護協会(LBH)に抗議する群衆が押し寄せ、建物の一部を破損、深夜まで居座る事件があった。「共産党の集会開催」というデマに基づくものであった。
攻撃側はイスラム擁護戦線(FPI)など、アホック前ジャカルタ州知事へのデモ主催者にもなったイスラム急進派であった。野党勢力と結託して、2019年大統領選挙でジョコウィを追い落とそうとしている。
しかし攻撃対象となったLBHは、ジョコウィ政権にときに批判的であり、与党勢力とは異なる立場にある。ではなぜLBHが攻撃対象になったのだろうか。
LBHはスハルト体制期から存在する、全国的な人権NGOである。社会的弱者の人権侵害に警鐘を鳴らし、法的な支援をしてきた。
例えばアホック前ジャカルタ州知事による、都市整備に伴う強引な立ち退きやジャカルタ沖人工島建設には反対した。他方、宗教冒とく裁判では、アホックを擁護した。
LBHはまたイスラム急進派によって攻撃された宗教的少数派の人権保護に奔走している。しかし7月に出された大衆団体法の法律代行政令に基づく、急進派のヒズブット・タフリル・インドネシア(HTI)解散には反対している。同政令は権力の乱用による少数派の抑圧を招きかねない内容だからである。
政権に近い市民社会勢力は、大衆団体法改正に賛成している。彼らはアホックの有罪判決に象徴される、イスラム急進派の台頭に危機感を抱いている。彼らにとっては、法的な一貫性に多少の齟齬(そご)があっても、急進派の台頭を防ぐことが優先事項である。
LBHで17日に実際に行われていたのは「クールなアクション! インドネシア民主主義の危機」というイベントである。大衆団体法改正を含めた現状批判を前提としている。
しかし抗議運動の参加者にとって大切なのは、大統領選挙に向けて、ジョコウィ政権(の支持者たち)に「反イスラム」「共産党」という否定的なレッテルを貼ることである。LBHは格好のスケープゴートになった。
こうした空中戦は19年に向けて激しさを増していくだろう。(見市建=早稲田大学大学院アジア太平洋研究科准教授)