【貿易風】イスラム急進派対策と「静かな外交」

 1カ月ほどジャカルタ、東ジャワ州のスラバヤやマドゥラ島を回って調査を終えようとしているところである。昨年来追いかけているシーア派の国内避難民問題を中心に、聞き取りをした。日本政府の社会分野の貢献について考え直す機会にもなった。 
 マドゥラ島サンパン県では5年前に少数派のシーア派を標的とする暴動が起き、数百人の避難民がスラバヤ郊外の公営住宅に収容された。最大の障害は、シーア派を敵視する地元の一部宗教指導者である。解決に消極的なユドヨノ政権に対し、人権NGO(非政府組織)がアピールと避難民の支援を続けてきたが、紛争解決への糸口を見出せなかった。 
 しかしジョコウィ政権になり、大統領府が解決に乗り出した。スンニ派、シーア派双方の住民への支援を通して避難民帰還への地ならしを進めている。 
 また、現政権には珍しく、本件ではメディア露出を避けている。地元の宗教指導者が、外部のシーア派を「異端」だと考える勢力と手を結び、政権批判を展開しうるからである。当事者たちは「静かな外交」(内政だが)と呼んでいた。少数派の人権保護という票になりにくい政策にもかかわらず、大統領府は積極的である。 
 調査の過程で、英米政府系機関の「静かな外交」にも遭遇した。現地イスラム団体を通したサンパン支援にはアジア財団が関与していた。ブリティッシュ・カウンシルは、地元NGOによるイスラム学校への人権教育への支援をしている。西洋的な人権概念の押し付けにならないように、イスラム法学の古典がテキストである。いずれも地域の社会や宗教事情への慎重な配慮がある。 
 インドネシアのイスラムに関係する日本政府の支援は知りうる限り、ほとんどが交流事業である(あるいは宗教学校への施設補助)。もちろん将来の指導者を日本に呼び、視野を広げてもらうのは非常に結構なことである。しかし、上のような市民社会への支援は見られず、私見では、表面的な交流に留まっている。 
 民主化から20年近くが経つ。この社会との付き合い方を考え直す時期に来ているのではないだろうか。(見市建=早稲田大学大学院アジア太平洋研究科准教授)

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