右派ポピュリズム台頭 多様な勢力が「便宜結婚」 三菱東京UFJ銀講演会  立命館大・本名教授 ジャカルタ州知事選

 三菱東京UFJ銀行ジャカルタ支店は19日、中央ジャカルタのケンピンスキーホテルで経済講演会を開いた。立命館大学の本名純教授と同支店の西仲崇行副支店長が講演し、約500人が来場した。

 本名教授は「ジャカルタ特別州知事選をめぐる政治と今後の国政」をテーマに講演した。まずメディアの主な論点として「なぜアホック氏は負けたか」「なぜ事前の世論調査は間違ったか」「アホック氏敗北の国政へのインパクト」を挙げた。
 有権者の70%がアホック氏の業績を評価しながら、実際に投票したのは42%にとどまった原因として、世論調査では、アニス・バスウェダン氏が同じムスリムであることを理由に挙げた人が58%に上り、これはアニス氏の得票率と重なると指摘。業績に満足しているが、宗教的に投票できないと考えた人が30%ほどいたと話した。
 アニス支持者らが「アホックを支持したら葬式を出さない」と、脅しを使ったブラックキャンペーンが影響し、合理的に候補を選ぶ人でも「本当はアホックに入れたいが、他の人が投票してくれるだろう」との発想に至ったと分析した。
 しかし本名氏は、こうした動きを「イスラム保守勢力の台頭」と単純化することはできないと強調。多様な当事者、多様な利害関係があり、イスラム保守勢力に限らず、反アホックという渦の中で共鳴しながら動いていく「便宜結婚」が起きたと指摘。さらにデマゴーグ・ポピュリズムのツールとして、ソーシャルメディアを通じて最大化されていく「右派ポピュリズムのネットワークパワー」が強化されたと分析した。
 ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)氏が勝利した12年の知事選、14年の大統領選でも宗教は問題になったが、イスラム勢力だけでは大衆を動員できなかった。そこで今回はムスリムが思考停止になりがちな「宗教冒とく」のキャッチフレーズを前面に出し、政治的武器にすることに成功した。それが野党勢力の団結力を向上させたほか、ジョコウィ大統領とユスフ・カラ副大統領との関係など政権内の不協和音も、反アホックキャンペーンを拡大させる要因になったと話した。

■多様なプレーヤー
 右派のネットワークプレーヤーの一つ、イスラム保守勢力について、本名氏は「必ずしも団結しているわけではない」と強調。指導者同士でライバル関係にあると指摘した。
 他のネットワークプレーヤーとして「右翼な人たち」を挙げた。弁護士、労働活動家、社会団体などイスラム保守勢力とは水と油の関係にあるが、共通するミッションの下に「便宜上の結婚」をしたと分析した。
 また、政治的影響力を持つ有力者、資金提供者を列挙。「王朝」をつくりたいユドヨノ前大統領が長男アグス氏を擁立し、アホック氏に対する宗教冒とくのファトワ(宗教見解)発令に向け圧力を掛けたほか、スハルト氏の三男トミー氏は以前の刑事事件で、ティト・カルナフィアン国家警察長官に逮捕された個人的恨みもあるなど、「さまざまなスポンサーがいて(大衆動員も)持続していった」と分析した。
 選挙戦終盤の3月、カラ副大統領が、日本人も犠牲になった昨年7月のバングラデシュの人質テロ事件の黒幕とされる、インドの過激派指導者ザキル・ナイク師をインドネシアに受け入れ、保守派であることを示す非常に大きなメッセージを出したと指摘した。
 右派ネットワークの大衆動員手法として、▽中国や華人などの陰謀論▽敵の悪魔化▽千年王国説▽愛国主義的団結闘争▽ヘイトスピーチの脱タブー化――を挙げた。インフラ政策やナトゥナ海域の安全保障問題などに絡む政権内部の要因や、宗教を尊重する傾向がある中産階級に対し、ソーシャルメディアで過激なメッセージを植え付けていく動きなど社会的要因を通じ、右派のポピュリズムは大統領選が終わるまで持続力を持つと予測した。
 本名氏は質疑応答で、こうした傾向に対し「ジョコウィ政権はインドネシア本来の多様性、パンチャシラ(国家5原則)を尊重する方針を強調している」と述べ、難しい状況ではあるものの、この国の民主主義にプラスになっていくと指摘した。(配島克彦、平野慧)

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