【アルンアルン】南シナ海の緊張緩和に向けて
天然資源に恵まれ、シーレーンとしても重視される南シナ海。中国と台湾、一部のASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国は、この海域に点在する島や岩礁の領有権を主張してきた。近年、この海域で軍事的緊張が高まっている。中国が南シナ海のほぼ全域を囲む「九段線」と呼ばれるラインを設定し、その範囲に位置する岩礁を次々と埋め立て、さまざまな建造物を作るなど実効支配を強めているからである。
ASEAN諸国は、中国に対して領有権問題の平和的解決や敵対的行動の自制、国際法の順守などを求めてきた。2002年に発表された「南シナ海における関係国の行動宣言」はそうした外交努力の成果であり、ASEAN諸国と中国は、敵対的行動の自制や信頼醸成を目的とした共同作業の実施などを約束した。近年では行動規範の策定が目指されているが、中国が策定に消極的だとされ、その見通しは立っていない。
中国の実効支配の直接的打撃を受けているのが、係争国のフィリピンとベトナムである。ASEAN内には、フィリピンなどの対中強硬派だけでなく、係争国ではなく中国との経済関係を重視したいカンボジアやラオスなどの親中派も存在する。一方、マレーシアは係争国でも対中穏健派だったが、係争国ではないものの利害関係国であるインドネシアとともに中国への警戒を強めている。
フィリピンは、アメリカとの協力を強化する一方で、13年にオランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所にこの問題を持ち込んだ。狙いは、自国の排他的経済水域(EEZ)の権利を認めてもらい、中国の南シナ海での行動がフィリピンの主権を侵害していること、中国が埋め立てている岩礁はEEZを主張する根拠がないことなどを裁判所に認めてもらうことだった。7月12日、裁判所はフィリピンの訴えを全面的に認めた。
中国は仲裁裁判所がこの問題の審理を行う権限はないと主張しており、フィリピンの一方的な訴えを非難している。ただし、こうした国際的な司法判断はそれなりのインパクトを持っている。中国は、判決には従わないとしつつも、中国の主張を支持するようASEAN内親中派に働きかけるとともに、態度を軟化する姿勢もみせている。7月24日、ASEANと中国は「南シナ海における関係国の行動宣言」を順守することを改めて誓った。今後、中国の行動に変化がみられるかが注目される。(鈴木早苗・アジア経済研究所地域研究センター東南アジア研究グループ研究員)