埋め立て事業に警鐘 ジャカルタ湾 初の公聴会で影響議論
ジャカルタ湾の人工島造成に伴う埋め立て事業に関する議論が活発化している。水質汚染や土壌侵食、海面上昇による洪水被害など、沿岸部の管理方法が争点となっており、政府は公聴会を開いて専門家や漁民らと協議、事業再開に向けた環境対策があらためて問われている。
中央ジャカルタのジャカルタ特別州庁舎で10、11日の両日、埋め立ての枠組みについて話し合う初の公聴会が開かれた。環境林業省と海洋水産省、海事調整省が主催し、投資家、環境団体や大学の専門家、北ジャカルタ区の漁民らが出席した。
中央政府とジャカルタ特別州政府は4月中旬に合同委員会を設置。埋め立てに伴う影響などを2カ月間にわたり調査してきた。
環境林業省・空間計画局のサン・アフリ・アワン局長は、埋め立てを実施するジャカルタ湾など北沿岸部へは13の河川が流れており、埋め立てや土地開発に伴う産業廃棄物や工場の排水などによる海水の汚染が、州内やその周辺を流れる川の汚染につながると説明。さらに「沿岸部における土地の浸食や地盤沈下、地下水位の低下なども問題視すべきだ」と話した。
北ジャカルタでは海面上昇の影響で堤防が決壊したり、住宅が浸水したりする被害が相次いでおり、海を埋め立てることで押しのけられた海水が影響し、海面が上昇するとの意見があがっている。
一方、アホック知事は「埋め立てが原因で海面が上昇するという説は誤った知識。海水面の上昇は満ち潮によるものだ」と主張。引き続き埋め立て事業を進めたい考えを示した。
合同委員会のベルナンドゥス・ジョノプトロ委員長は、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領から沿岸部における問題解決のために取り組んでほしいとの指示があったと明かした。同委員長は住民の生活面や司法面、経済面など埋め立て実施による影響を明らかにしたうえで埋め立ての是非を判断すべきだと説明。また「北ジャカルタだけの問題ではない。インドネシアは、全国各地にある沿岸地域をどのように管理するかという課題を抱えている」と指摘した。
沿岸部で生活を営む漁民らからは、州政府が実施している開発に伴う強制撤去の対策として低所得者向けの州営賃貸集合住宅(ルスナワ)が用意・建設されているが、問題解決にはならないとの意見が相次いだ。漁民のほとんどが国有地に許可なく家を建てて生活しており、集合住宅に移転しても家賃を支払う金銭的余裕がないという。
人工島は32キロにわたる巨大防波堤の内側に計5100ヘクタールにわたる17島を造成する計画。埋め立てはすでに始まっていたが、許認可をめぐる贈収賄事件が発覚、4月に一時中断された。5月末にはジャカルタ行政裁判所が、州政府が環境面など沿岸開発の法令を順守していないとして一部の人工島の建設許可を無効にする判決を下している。(毛利春香)